スタン・ゲッツを聴く

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ゲッツのオリジナル曲について

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基本的に、ゲッツはオリジナル曲を書かないミュージシャンとされています。それでもレコードにはゲッツ作曲とクレジットされているものもあります。それについて検証してみたいと思います。基本スタンスは「ゲッツはほぼ作曲などしていない」というものです。

まずは「The Complete Savoy Recordings」に収録されている「And the Angels Swing」。なんとなく「Hush A Bye」に似ている曲で、ちょっと素人が作ったようなメロディです。これがゲッツの曲かどうか、ここでは判断できません。続いて同じCDから「Running Water」。ちょっと思い出せないのですが明らかに何かのスタンダードのコード進行で、ソロをしているだけというパターン。クレジットはゲッツでも「作曲」ではありません。こういうのがけっこうあるんですよね。

Stan Getz Quartets」もなかなか数だけはあります。初期ゲッツではもっともおなじみの「Long Island Sound」。テイクによってかなり似てはいるものの、なんとなくのモチーフを使いながらアドリブをしているだけで、これも「作曲」ではないとみなせるのではないでしょうか。「アドリブなら、テイクが違うのにここまで似たようなフレーズになるか?」という意見もあるかもしれません。が、ゲッツの生涯の演奏を通して聴くと、50年代から90年代までまったく同じフレーズを使っていたりエンディングパターンが同じだったりするのが散見されます。だから、楽譜に書かなくてもアドリブフレーズのもとになるボヤっとしたモチーフを何度も何度も使うというのはあり得るわけです。

それから「Mar-Cia」。この頃のワンホーンで崩しまくるゲッツのスタイルからして元のメロディがありそうにも思うかもしれませんが、これもアドリブのみとみなせそうです。さらに「Crazy Chords」は完全にアドリブのみブルース。ついでに同じセッションの「Prezervation」に収録されている「Prezervation」は単なる「Crazy Chords」の別テイク、「Intoit」はアドリブのみ。

 

初期ゲッツ、1950年前後はけっこう判断が難しいものがあります。「The Sound」の「Standanavian」または「S'Cool Boy」、ゲッツとベンクト・ハルベルクの共作ともされていますが、ハルベルク単独でしょう。しかし「The Sound」には強敵三銃士「Tootsie Roll」「Sweetie Pie」「Hershey Bar」がいます。先に「Hershey Bar」をやっつけましょう。これはスタジオ盤でこそゲッツ作となっていますが、「Stan Getz at Storyville」ではジョニー・マンデル作とクレジットされています。そうすると残り2つも、マンデルまたはジジ・グライスのメロディっぽいと思うんですよね。ルーストのスタジオ録音では、グライスの曲を取り上げるのは1951年のセッションからですので、マンデル作曲ということでいいのではないでしょうか。ゲッツは1940年代からマンデルとバンドを組んだり、50年代には一時抜けたボブ・ブルックマイヤーの穴をマンデルにお願いしていた(マンデルはトロンボーン奏者)こともあるほど、懇意にしていましたから。

 

ヴァーヴの時代に行きましょう。1957年「Stan Getz and the Oscar Peterson Trio」には、CD追加曲を含めてゲッツの作曲として「Tour's End」「Bronx Blues」「Blues for Herky」の3つが収録されています。これらはすべてアドリブのみです。「Bronx Blues」「Blues for Herky」なんて「どブルース」、完全にハーブ・エリスの好み、彼の主導でしょう。

同じく1957年「The Soft Swing」から「Pocono Mac」「Down Beat」。どちらもアドリブのみのブルース。

Scandinavian Days」に収録されている「Fireplace Blues」、これはしっかりとしたブルースなんですが、どうもどこかで聴いたことある気がするんです。ちなみに「Live at Montmartre」に収録されている「Blues For Dorte」と同じ曲。ついでに「Live at Montmartre」には「Stan's Blues」という曲が入っています。ご存じ「Stan's Blues」には2種類ありますが、テンポが速い方です(と言えばわかるでしょう)。便宜上、速い方を「A」、遅い方を「B」としましょう。Aはビル・エヴァンスとの「But Beautiful」でも演っています。

 

1960年前後には、それらしいものが出てきます。「Stan Getz At Large」ではゲッツ作曲とされているものが4つありますが、「Stan Getz At Large Plus」ではすべて否定されています。一番物議を醸した「Amour」「Amor」または「Ah-Moore」、これはアル・コーンの曲という結論が出ています。「Just A Child」、これもジョニー・マンデル作という方が正しいでしょう。「Pammie's Tune」は北欧のゲッツと言われるエリック・ノールストローム(?)の曲。さらに「Cafe Montmartre Blues」、これはどうなんでしょうね。非常にその場で作った感のあるブルース。これだったらゲッツ作でもいいといいたいところですが、こちらではオスカー・ペティフォード作とあります。「Stan Getz At Large Plus」の方が正しいでしょうね。

1964年「Live in London」の「Getz Blues」は、「Stan's Blues」のAです。1977年「Affinity」の「Coda」は単なる練習フレーズ。このあたりまで来ると、出尽くしたという感じがしますね。

おっと、「Apasionado」が残ってました。収録曲は「全てエディ・デル・バリオ、ハーブ・アルパートスタン・ゲッツ作」とクレジットされてますが、論外です。ゲッツは上に乗ってアドリブを吹いただけ。

すると、最後に残るのが、「Stan's Blues」のBです。後年、頻繁にこの曲を演奏していました。このメロディ、「Stan Getz at Storyville」に収録されている「Jumpin' With Symphony Sid」のテーマではありますが、この曲は2種類のブルースを続けて演奏していますよね。前者がこのメロディでそのあと別のブルースのリフが演奏されます。レスター・ヤングによるオリジナル「Jumpin' With Symphony Sid」は後者のフレーズだけです。いえ、レスターを持ち出すまでもなく、「Getz At The Gate」でも後者のフレーズだけを吹いています。そうすると、前のメロディが誰が考えたのか。どうもその印象からしてジミー・レイニーあたりが考えたようなフレーズではありますが・・・

 

ということで、ほとんど憶測でしたが、ゲッツの作曲かもしれないと思えるのは、意外にも最初期の「And the Angels Swing」だけという結論になりました。繰り返しますがけっこう素人的なメロディで、これなら10代のゲッツが作った言ってもむしろ納得できるレベルです。