スタン・ゲッツを聴く

スタン・ゲッツ ファンが勝手なことをいっているブログです。

Apasionado

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このアルバムを「いまさらゲッツがまたフュージョンか」といった人がいたけど、本質を見ていないと思う。ゲッツのフュージョンというのはまさに単なる フュージョンではなく「ゲッツのフュージョン」というジャンル、スタイル。一般的な高音域で泣き叫ぶフュージョンサックスとはまったく違うし、ゲッツ独自 の味が出ていて、単なるフュージョンではないだけでなく4ビートのゲッツともまったく違う素晴らしい音楽となる。大体、電気を使った音楽が嫌いという人は、ジャズにだけ電気を認めずに他の音楽の電気を認めるという矛盾した原理主義傾向がある。

 

このアルバムはハーブ・アルパートによるプロデュース。ポップなコード進行とそれを支えるシンセ入りのリズムセクション、ドラムはポップなサウンドにぴったりのジェフ・ポーカロ、これだけ揃えたらあとはほとんどテーマメロディなんて書かずにゲッツに好きなように上に乗ってもらっただけ、という作り方と思える。ゲッツのために「場」だけをセッティングしたような。その結果とんでもない傑作が誕生した。さすがアルパートだなと感心します。評伝では著者が「Focus」と比べて低評価を下してますが、コンセプトも違うしさすがに見当違いでしょう。

それにしても、よく考えてみてください、バックだけ作ってあとは適当にソロで乗っかってもらうというアルバム、できるできないで言えば多くのジャズミュージシャンにできることですが、そのフォーマットでアルバム1枚作りたくなるようなミュージシャンが、ゲッツのほかにいますか?いないですよね。まあ、マイルス・デイヴィスの「Tutu」が似たようなコンセプトかもしれませんが、あれはマーカス・ミラーサウンドになってしまい、目論見としては失敗でした。

閑話休題。このアルバムですが、セッションの場では作曲者兼シンセ担当のエディ・デル・バリオの書いた楽譜に数か所間違いがあって、それだけでゲッツがキレたとのことです。かなり死期が迫り人間的にも丸くなっていたと言われてましたが、やはり王様ゲッツ、簡単に性格は変わらないかw

1曲目のタイトル曲はゲッツがフュージョンサックスではなく自分のサウンドで優しくソロに入るところからして他のフュージョンとは一線を画している。そしてだんだん盛り上がっていく構成、さすがとしか言いようがない。 あの1990年のコンサートでもこのアルバムから数曲取り上げているわけですけど、「Coba」「 Amorous Cat」や「Lonely Lady」なんかより「Madrugada」「Midnight Ride」のほうがライブで盛り上がるのになあ、と思う、それほどどの曲もいいんです。あらかじめ書かれたメロディはほとんどないけど。

 

実はこのアルバムは私も初めて聴くまでは期待していなかったんですが、数あるゲッツのどのフュージョンアルバムとも違う感じで、今では「こんなにいいアルバムもめったにないんじゃないかな」というくらい好きです。繰り返します、さすがアルパート。やっぱりプロデューサーとしてすごい人です。この構想、もし他のフュージョン系サックス奏者がやっていたら、21世紀の耳にはすごく時代遅れに聴こえているでしょう。ゲッツだからこそ、いつ聴いても古臭くないサウンドになったと断言できる。これを考えたアルパートはすごい。ちなみにアルパートご本人のアルバム「Rise」は他の追随を許さないほどつまらないけどw

とにかく1980年以降のゲッツは、アコースティックだろうとフュージョンだろうとハズレなし。ですが、基本的にゲッツにハズレはないです。

 

Apasionado: Originals (Dig)

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