スタン・ゲッツを聴く

スタン・ゲッツ ファンが勝手なことをいっているブログです。

Without A Song

ジャケットにはベニー・グッドマンが映っている。ゲッツはオットーリンクのメタルを吹いているという、実は貴重な写真。スウェーデンデンマークポーランドでの録音を集めたもので、12曲収録。後半の5曲はゲッツファンならおなじみの「ワルシャワ5」。勝手に名前をつけましたが、はい、あの5曲です。

で、前半の7曲が素晴らしい。すべてライブ録音だけど最初のスウェーデンストックホルム録音の4曲は拍手も聴こえず、この頃の欧州録音に多かったラジオ放送用のスタジオライブなのかも。

1958年~1960年は北欧に拠点を置いていた時期。この頃は録音が多いけどどれも同じようなラインナップなんだよな~と、期待せずに冒頭の「Born To Be Blue」を聴いた瞬間ノックアウトされる。完全に意表を突かれます。なんと、ほかのアルバムで聴けるようなバラードでなく軽快なミディアムスイング。ゲッツは泉のようにメロディを紡ぎ出す。録音の悪さがむしろ雰囲気を醸し出していてグッド。スタジオ盤ではないけど拍手がまったく聴こえない「Move」も新鮮。

7曲目「Without A  Song」はスタジオヴァージョンが収録されている「Stan Getz In Stockholm」とは違い冒頭からゲッツがテーマを吹く。これがけっこういい。スタジオ盤を聴いた人はみんなブリッジからゲッツが入るからかっこいいと思っているはずだけど(実際そうなのだけど)、このライブ録音を聴くとこれもまたいいと思うはず。

結局ゲッツのこの時期の北欧録音って、レパートリーがつまらないとかサイドメンがダメだとかなんだかんだ言っても、どれも良い演奏なんですよね。

 

Without a Song

Without a Song

 

Move/Miles Davis & Stan Getz

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国内盤で昔は下のジャケットで入手できたような気がするんだけど、いまはまったく別の内容になっている。上のジャケットは録音年と写真のずれが気になりますね。

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1950年のバードランドライブ。ラジオ放送用らしい。当時のクールジャズの雰囲気がよく録られている。ただ、希少感がありながらも全体的に盛り上がらないまま終わるという印象。マイルス・デイビスは、例外もあるけどホットな木管奏者とのほうがトータルでいい演奏になると思う。名盤とされる「Birth of the cool」もそんなにいいと思えない(いや、あれがつまらないのは別の理由かな)。ゲッツも同様で、チェットとの共演はそれなりにおもしろいのになぜかここでのマイルスとの共演は盛り上がらないというか混ざらない。

ただ、「Conception」は意欲作でいい曲ですよね。アレンジもいいし構成もいいし、ソロもいいテンポに乗ってこの時代のジャズの魅力が伝わってくる。ハードバップ以前って独特の魅力があるよね。

トロンボーンはJ.J.ジョンソン。このあと1957年のオペラハウス1960年のJATP1988年のリユニオンライブなど共演がたくさんあるけど、ゲッツとの付き合いは古いんだなあ。それと、ドラムはアート・ブレイキー。割りと珍しい組み合わせ。

 「That Old Black Magic」は誰が演奏するかバンド内で投票をして、ゲッツに決まったとのこと。リーダー格が何人もいると、面倒ですね。

Move

Move

 

Newport In New York '72

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いろんなジャケットがあるようですが、私の持っているバージョンは下のこれです。

 

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72年のニューポートジャズフェスティバルの録音で、CD3枚組。もとはLP5枚だったのかな(6枚?)。とにかくすごいメンバー。ゲッツのほか、ディジー・ガレスピークラーク・テリー、ハリー・エディソン、ソニー・スティットジェリー・マリガンデクスター・ゴードンズート・シムズローランド・カークイリノイ・ジャケーミルト・ジャクソンハービー・ハンコック、ジャキ・バイアード、ジミー・スミス、チャールス・ミンガス、アート・ブレイキーマックス・ローチエルビン・ジョーンズ、トニー・ウイリアムス、ゲイリー・バートンナット・アダレイケニー・バレルB.B.キングなどなど。当然全員が一堂に会して共演しているわけではないけど。ヤンキースタジアムでの演奏もあり、この頃はそんなに人が集まったんだなあと驚きます。ちなみにこのアルバムの最大の聴きどころはやはりローランド・カークの「Impressions」です。伝説のモントルーと同じ1972年ですし。カークは、総合的に判断するとジャズ史上最も「上手い」テナー奏者だと思いますね。

ゲッツは「Bags' Groove」と「A Night In Tunisia」に参加。でも「Bags' Groove」がどうも淡々とした演奏に聴こえるのは私だけでしょうか。ゲッツの音色でフレーズもばっちりで、後半少しワイルドになって、文句なしと言えばそうなんですけど、テンポがどっちつがずで、リズムセクションがちょっとおとなしいのかな。いえ、ローチの手数は多いのですけど、これもまたなんとなくそういう印象。ミルト・ジャクソンもなんだか「らしくない」プレイに聴こえます。余裕がありすぎるのかもしれない。しかしジョン・ブレアなるヴァイオリニストが、ほとんどマハヴィシュヌ・オーケストラのジェリー・グッドマンばりの演奏をして、聴衆を沸かせます。

(2024年3月追記。久しぶりに聴いたらゲッツの演奏は流麗だしまったく問題ないどころか名演だな~と思いました。)

「A Night In Tunisia」でのゲッツは、「West Coast Jazz」とは違うアプローチだなと思っていたら、その「West Coast Jazz」収録のテイクと同じフレーズを8小節も吹いて、その後は攻め手を欠いたようなフレーズに終始してしまう。とはいえ絶対的に劣っているというわけではなく、個人的には好きな演奏です。

ゲッツ参加は2曲だけですが、ほかの収録曲もかなりおもしろく、例えばオルガンのジミー・スミスゲイリー・バートンの共演にドラムはアート・ブレイキーとか、ローランド・カークハービー・ハンコックの共演とかもあったりして、このアルバムは買って損はありません。