スタン・ゲッツを聴く

スタン・ゲッツ ファンが勝手なことをいっているブログです。

The Golden Years, Vol. 1 1952-1958

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このCD、ほとんどラジオ音源で、音質もわるい。アナウンスもたっぷり入っている。だからこそ、秋の夜長なんかに小さい音量で流しているといいムードになるかもしれない。

全部で8つのセッションから構成されていて、けっこうたくさんモーズ・アリソンがピアノを弾いている。

1曲目のデューク・エリントン楽団との共演「 I Got It Bad And That Ain't Good」は、ジョニー・ホッジスによる演奏とは全然違い、すごく新鮮な感じ。

他にもわりと珍しい共演が収録されていて、バディ・リッチや、「Broadway」ではアート・ブレイキーがドラムを叩いている。エンディングにおけるドラミングはほとんど「バードランドの夜」状態でおもしろい。 

「Jordu」でのドラマーはポール・モチアン。ここでは珍しくゲッツのダメなプレイが聴ける。4小節単位でフレーズが切れてしまい、素人みたいな(いえ、うまいんですけど)構成になっている。

 ラストの「Fontessa」は、ドナルド・バードとの共演。ジャズ批評には「タイトルわからないけどFontessaではない」という記載がある。いや、そうは言いきれないでしょ。確かにMJQの同名曲とは違うけど、これも同じタイトルかもしれない。

ちなみにジャズ批評では担当ライターが「あのモーズ・アリソン」とか言ってやたらとアリソンを持ち上げているけど、別にそんなに優れたプレイヤーではないと思います。

 

ちなみにこのCDは「Vol.1」ということで、「Vol.2」もありますが、そちらに収録されている音源は他のCDでも聴くことができます。

The Best Of Two Worlds

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60年代の共演盤よりパッとしない印象があるかもしれないけど、ポップスとしての完成度はこちらも負けていない。変にストイックなものを求める必要はない。ボサノヴァのスタンダード曲は収録されていないけど、名盤だ。なんとこれがゲッツのコロンビア移籍後第1弾。コロンビアの経営層は、「ゲッツはストレートアヘッドなジャズよりポップス系」と考えていた。まったく意味がないというかわからないけど、参加メンバーにはオスカル・カストロ・ネヴィス、アルバート・デイリー、スティーブ・スワロウ、ビリー・ハート、グラディ・テイト、ルーベンス・バッシーニ、アイアート・モレイラの名前もある。

 

1曲目、いきなり英語詞でエロイーザ・ブアルキ(シコ・ブアルキの姉です)のみの歌、ジョアン・ジルベルト不参加。いい意味で強固な意志を感じる。実はこのアルバム、ゲッツ自身によるプロデュースらしい。ホントかな。評伝には「ジルベルトとの共演をさせられて、ゲッツはコロンビアに不満を持っていた」なんて書いてある。自身のプロデュースなら不満云々はウソ、言い訳ということになる。私は、ゲッツの意思で作ったアルバムだと思う。ジョアンとの共演には何か秘めた意図があったのか、再びの大ヒットを狙ったのか。いずれにしても積極的に音楽を作っているということが伝わってくる。全編にわたり元気のいいソロを聴かせ、3曲目では自身のソロを二重録音。これは何の意図があったのかわからないけど・・・

「自分はボサノヴァを理解している」というアピール評論家や似非ボサノヴァファン、ボサノヴァ以外理解できない多様性音楽ファン初心者は「ゲッツの大仰なブロウがジョアンの音楽を台無しにしている」などと訳知り顔で評論しているアルバムだけど、何を言ってるのか。ゲッツが自分のアルバムを作った、そこにジョアンを参加させた、というものだ。ジョアンの音楽がどうのなんて評価をここに持ち込むのはナンセンスだし、ボサノヴァという物差しで測る必要なんてない。ゲッツのジャズという物差しで測ればいい。

 

選曲は当時のジョアンのレパートリー中心。完全に別々にスタジオ入りして多重録音で仕上げたんでしょうね、ジャケットと裏ジャケットを見ればそれが伝わってくる。まだジョアンは「自分だったら何をやっても称えられる」ということに気づいていないから、おかしな尺の伸び縮みをしていない(「Retrato em Branco e Preto」ではやっていて、聴いていて気持ちが悪い)。翌年のライブ盤ではすでにその兆候がある。

 

それにしても多重録音としてもゲッツの伴奏部分なんかよくやったなあとも思うけど、ギターのカストロ・ネヴィスも参加しているから切り貼りでカストロ・ネヴィスによるギターを付け加えた可能性はあるね。以前ヴィセンテ・アミーゴのライブで、ギタリストが入れ替わっても音だけ聴いてるとけっこう気づかないということを体感したことがあります。

ゲッツ・ジルベルト・アゲイン

ゲッツ・ジルベルト・アゲイン

 

Stan Getz & Bill Evans

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素晴らしい顔合わせだけど、不思議と謎だらけのアルバム。個人的には好きですけど。

「謎:なぜゲッツのジャケット写真がこんなにかっこわるいのか」

ジャケットのゲッツの写真がぼけているしかっこわるいよね。ビル・エヴァンスの方はバッチリカッコいいのに。

「謎:なぜこのメンバーなのか」

ゲッツ、エヴァンスのほかはロン・カーターエルヴィン・ジョーンズリズムセクション。エルヴィンなんてジョン・コルトレーンのレギュラーバンドでかなりブイブイ言わせている時期なのにね、よく選んだものだなあ。この2人が合ってるのか合っていないのかよくわからないけど、全体的には2人のリーダーがいい作品に仕上げている。

「謎:「Night And Day」での8バース」

「Night And Day」はゲッツの他の録音とは感じが違うけど、2人のリリカルの応酬が非常にすばらしい。特にエヴァンスがいいプレイをしているんだけど、後半、カーターとエルヴィンの8小節交換がある。これが意味不明。エルヴィンが8小節ドラムソロをすると、無伴奏でカーターのウォーキングソロ。カーターのソロはいただけない。単に音を出しているだけ。無伴奏はきついと思ったか、次のチェンジではエルヴィンはドラムによる伴奏をつけている。別テイクを聴くと無伴奏部分はないから、単に忘れただけ?それにしてもこの8バース、かなりきついですよ。痛々しい。なんでこんなのやったんだろう。

「謎:なぜこのキーか」

「But Beautiful」は、ゲッツにとってはF#メジャーというやたらと難しいキーで演奏している。転調はするけど、また戻るし。たまにこういうことをするゲッツ。

「謎:ちょっとエヴァンスの意図がわからない「My Heart Stood Still」」

「My Heart Stood Still」で、エヴァンスのソロの1コーラス目でほとんど音を出さない。じゃあベースのウォーキングソロなのかというとどうもそうでもない。コーラスの終わりの方でポロポロと弾き始めるのが、次のコーラスでも続いて、いつの間にかピアノソロになっている。交代の切れ目もよくわからない。クスリでおかしくなっていたのかとも思うけど、別テイクも同じようなよくわからないことをしているから、意図的であることだけはわかるけど、意図がわからない。

それと、ゲッツの手癖が気になる「Funkallero」。もう同じフレーズを何回も何回も、かなり気になるなあと思って回数を数えてみたら、なんとたった4回でした。そう思うと大して気にならなくなるから不思議。

と、謎をいくつかあげました。あまり有名でないバラード「Melinda」は素敵。少し某スタンダードに似ているフランク・ロッサーの曲、すごく名曲なんですけどほかの録音を知らない。どうして誰もやらないんだろう。

それにしても、このアルバム、最初はあまり好きではなかった。上にあげた「謎」もあったし、メンバーがしっくりこないような気もするし。それでも何度も聴いているとゲッツもエヴァンスもかなりいい演奏をしていて、いつの間にか愛聴盤になっていた。

 

別テイクがたくさん入ったCDだけど、このときのセッションのさらに別のテイクが「The Complete Bill Evans on Verve」に入っている。ただ、これらは断片的なテイクで、あえて聴く必要はないです。一度聴けばもうたくさん。一緒に収録されている「Dark eyes」も断片的。ただ、コンプリーターを目指すなら必要ですね。ボックスセットにしか収録されていないからお金がかかるんだけどね。

 

スタン・ゲッツ&ビル・エヴァンス+5

スタン・ゲッツ&ビル・エヴァンス+5