スタン・ゲッツを聴く

スタン・ゲッツ ファンが勝手なことをいっているブログです。

Marrakesh Express

f:id:torinko:20201103175106j:plain

ジャズ批評119号の記事で酷評されていたアルバム。結論から言うと、そのとおり、どころかそれ以下です。ある意味「世紀の駄盤」。

 

まずジャケット。この不機嫌な表情、なぜこの写真にしたのでしょう。このときのゲッツは41歳、これまた老けた写真を選ばなくてもよかったでしょうし。

ジャズ批評に書いてあるとおり、プレイは覇気がありません。いつものゲッツ節を4割カットしたような感じです。実はこの録音のとき、ゲッツは薬の副作用で最悪の気分だったとのこと。伝記には「あれはこれまでに作った最悪のレコードだ」という本人の証言が書かれています。

また、オーケストラがうるさすぎて、ゲッツの音が消されてしまう。管だけでなくストリングスですらゲッツの音量より大きいですからね。そして選曲は笑っちゃうくらい。LPによって順序が違うようですが、バート・バカラックの「Raindrops Keep Falling On My Head(雨にぬれても)」「I'll Never Fall In Love Again」(カーペンターズのあれです)「The April Fools」。どれも代表曲ですね。これら3曲はほとんどソロなし、ゲッツに単にテーマを吹かせるだけ。ゲッツがカーペンターズをアドリブなしにたらたらと演奏するんですよ?普通にテーマを吹くだけでもフェイクを入れまくる、あのゲッツがワンホーンなのに楽譜をそのままなぞるようなことをするとは(アーティキュレーション、ニュアンスは当然ゲッツのものですけど)。そもそも「Raindrops Keep Falling On My Head」なんて、管で演奏すると間抜けになるということは想像に難くない。

それからとにかくダサい、ポール・サイモンの「Cecilia」。信じられないくらいかっこわるい。確かこの曲はオリジナル録音もこの時期だったと思います。売れ線を狙ったのでしょうか。ビートルズの「Because」もまったくダメ。むしろ、ジャズ批評でけなされていた「Love Theme From Romeo & Juliet」なんかはゲッツ向きのいい選曲だと思いましたけど。

だいいち、このアルバム、ターゲットは誰なのでしょう。ジャズファンにはまったく受けないナンパ路線で、ゲッツのサックスはポップス向けでもない。サウンド自体はロックでもない。実はプロデューサーはジョージ・マーティン。はい、またもやです。この2年後に録音される「Dynasty」も彼がプロデューサーでしたね。彼がロックだけしか理解できず、少なくともジャズのプロデュースはまったくできないということがこれら2枚で如実に証明されました。おそらく、イージーリスニングのアルバムを作ろうとして、そういうことに適していないゲッツを連れてきて、それでいて「この曲はアドリブは禁止」とか言ったのでしょうね。

しかし、悪いことばかり上げましたが、だからこそマニアにはおもしろい。「こんな駄盤もあるんだよ」と笑いながら聴けます。「Plays Music From The Soundtrack Of Mickey One」といい勝負です。いや、こっちの方が聴かせるアルバムとして最初から作っているだけ、マシかも。サントラ盤は観賞用ではありませんからね。

 

2023年追記。内容的には疑問符がつくこのアルバムですが、とはいえ収録曲が珍しいというのもあり聴きたい人も多いのか、それから「そんなにダメダメというならむしろ聴いてみたい」という人が多いのか、どういう理由か知りませんが、2023年10月にアナログLP盤ではありますが復刻されました。HMVのサイトを見ると、なんと6千円!「Verve by Request」とあります。やはり要望があったみたい。もとはMGMからでしたがVerveに権利譲渡されたのかな?

Broadcasts/ Stan Getz, Gerry Mulligan

f:id:torinko:20201217181302j:plain

 

いままでいろんな海賊盤音源を聴いてきましたが、おそらくこれが最低音質。「 Live At La Spezia Jazz Festival (Italy, July 7, 1979) 」よりもひどいですよ。客席からのエアチェックで、拍手の音ですべてがかき消されて聴こえなくなります。ゲッツのソロが終わると盛大な拍手になり本当にそれ以外は聴こえなくなり、音質の悪さゆえドラムもベースも聴こえない静かなピアノソロに移っているので、わからない人が聴いたらそこで別の曲になったと思うでしょう。

それにしてもジャケットが最高ですね。なんと収録されているのはすべてゲッツカルテットの演奏で、マリガンは1曲も参加していません。お馴染みのゲッツのレギュラーカルテットですから。また、裏に記載されている曲名はめちゃくちゃ。製作者は間違ったのでなく、面倒くさくて適当に記載したのでしょうね。まあ、製作者ご本人のオリジナルタイトルらしいので、ジャズのスタンダード曲名をウソで並べるよりはマシですが。

マリガン不参加はむしろラッキーで、共演ならともかく、半分マリガンのバンドの演奏が入っていたとしたらそれは聴かなくなりますからね。40年代のコンピアルバムでのワーデル・グレイズート・シムズ、ポール・クイニシェットのテイクをまったく聴かないのは私だけではないはず。

それから、このレコードはジャズ批評119号で珍盤として紹介されていますが、ここに記載されている情報も間違っています。記事にあるような「Wave」「Con Alma」などは収録されていませんし(違うものを聴いているのか?)、同書籍掲載ディスコグラフィーの方は1曲不足しています。さらにディスコグラフィーには「スタンリー・カウエルやチック・コリアという意見もある」みたいな注意書きがありますが、ラインナップからしてもアルバート・デイリーであることは明らか。「Times Lie」でのパターンもデイリー時代のものです。ピアノソロの内容では判断できませんがチックでないことは確か。ベーシストは鈴木良雄氏であると書いていますが本当?確かに1973年頃にはゲッツのバンドに参加しているはずですが。

念のため曲名を正しくすると、

Step Up, Swing Out・・・Stan's Blues

Bossa Nova Bauble・・・Original Ballad

Pitchman・・・La Fiesta

Sandy At The Beach・・・Lover Man

Boganville Hooks・・・Desafinado

Song For Strayhorn・・・Chega De Saudade

Waltzing Matilda・・・Times Lie

Bossa Nova Bauble」、いえ、「Original Ballad」はまったくボサノヴァではありません。「海岸の日曜日」(レコード記載のスペルが間違っていますが)が「Lover Man」とは驚き。「Waltzing Matilda」、ご存じのとおり「Times Lie」はワルツではありません。あ、導入部とエンディングはワルツか。

ご丁寧に、ボサノヴァメドレーをちゃんと2曲としてカウントしているように見えますが、私は製作者が切れ目がわからずテキトーに曲数を判断した結果たまたま一致しただけだと思います。この時代以降のゲッツのバラードの特徴で、「Lover Man」は最後にゲッツのテーマに戻りませんから、上述のように拍手でバンドの音が聴こえなくなります。続くピアノのソロを別の曲と勘違いして、これを2曲にカウントしているのではないかと。

同じく上述の、ジャズ批評におけるディスコグラフィーの1曲不足というのは2曲目「Original Ballad」のこと。これはしょうがないかも。出版時には発表されていなかった「Live at Sir Morgan's Cove 1973」に収録されていた曲ですし、このタイトルもおそらく暫定的なものでしょうし、かつ、とにかく音質が悪くてよくわからないので。

アルバムの形式的な話ばかりになりましたが、音質の悪さから内容に言及するのは困難。ただ前半のゲッツはさほど悪くないですね。ボサノヴァメドレーは飛ばしすぎで走ります。最後の「Times Lie」は14分台、この数年後には20分台とかも出てくるんですよね。これはサイドメンだけをフィーチャーする曲なので、初演のチックによる奇跡的名演以外はゲッツファンにはつまらないんですよねえ。

ブログについて

実はこのスタン・ゲッツに関するブログは、けっこう昔にlivedoorブログで取りかかったことがありました。当時から、というか、ジャズを聴き始めてからずっとゲッツファンの私は、ゲッツの魅力や思ったことを書き留めておきたいと思っていたのです。
ところが、そのブログを始めてまだ2つ3つくらい記事をあげたばかりのときに、攻撃的なマウンティングがあったんですね。始まったばかりのブログにコメントが書かれてました。私の書いた内容を、暴力的な上から目線で全否定、それだけならまだしも「お前はまったくわかってない」と言って、ほかにもいろいろと書かれていて、文章の最後に「wwwwwwww」と、草がかなりの数で付いていて、私は狂気を感じたというかすごく怖くなってしまいました。名前も知らない、会ったこともない、今後会うこともない人間に対して、攻撃的にマウンティングしてくる人がいるというネット世界が怖くなり、すぐにブログを削除して、しばらくずっと何もしていませんでした。人が人に対してここまで悪意を剥き出しにしてくるということにまったく慣れていませんでした。今でもそれは同じですが。
今回、このブログを数年前に始めたときも、またその人が書き込んだらどうしよう?と怖くなりましたが、2021年1月1日時点で今のところそのような書き込みはありません。

そういうのは多かれ少なかれ今もネットに氾濫してると思いますが、攻撃的な風潮はなくなってほしいと思います。
f:id:torinko:20210104080747j:plain