スタン・ゲッツを聴く

スタン・ゲッツ ファンが勝手なことをいっているブログです。

Spring Is Here

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The Dolphin」と同時期のライブで、姉妹作と言えます。「The Dolphin」はリアルタイムで発表されたけど、こっちはゲッツの死後の発表作。演奏内容は当然良すぎるんだけど、選曲がバラード中心になっているのはいかにもアウトテイク寄せ集めアルバムか。それぞれの曲はどれも素晴らしいんですけどね。でも、ゲッツの80年代の幕開けであり、「The Dolphin」とセットでのマストアイテムです。美しさは半端ない。

とにかく、冒頭「How About You」が良い。ソロに入ってペダルで進むところとか、普通ならすぐに4つ刻み始めるところをベースが2ビートの刻みで続けるところとか、さすがベテランのモンティ・バドウィック。ビル・エヴァンスとの「Empathy」を聴いたときは全然ピンと来なかったけど。それと1番最初のコードを少し変えているのが効果的。それと、いつも職人技が光るヴィクター・ルイスも好演。技術はあるのに技術を要しないプレイをすることが多く、その叩き方はゲッツのサポートに最も適したドラマーかとも思います。テーマに戻る直前のハイハットなんか最高です。

2曲目「You're Blase」は50年代に何度か吹き込んでいるバラード。1音引っ掛けて、ためて入るのがカッコいい。この、引っ掛けのあとのタメの瞬間がたまらない。エンディングのコード進行がまたゲッツらしくカッコいい。バラードの名手は何人かいますが、ゲッツも明らかにトップクラス。

ただ、このあとまだ5曲あるんだけどスロー曲やミディアムスロー曲が4曲なんです。「Easy Living」「Sweet Lorraine」1曲挟んで「I'm Old Fashioned」「Spring Is Here」。だからアルバム全体通して聴くと印象が薄くなるのかもしれないね。どれもこれも名演なのに惜しい。「The Dolphin」とセットで見ると13曲中8曲がスローまたはミディアムスローというのもけっこう意外。

ちなみに1952年の「Stan Getz Plays」は11曲中6曲がバラードで、CDでは4曲連続、レコードでも3曲連続でスローが来るのに、まったく飽きないのはなぜなのかな。

スローでない「Old Devil Moon」は、とにかくかっこいい。ラテンリズムのまま結構ゲッツのソロが続いて、ようやくスイングになるところ、ここでのゲッツの切り替え再スタートのようなクロマチックのフレーズがまた良い。気にしてないとどうでもいいフレーズなんだけど、実はセンスの塊。私も真似して吹いています。これも、ソロに入ったからといってすぐにはリズムパターンを変えず、ゲッツのソロがもう少し続いてから変えるという、「How About You」のような工夫があり、それがとにかくベテラン揃いの名人芸を感じさせる。

 それから「I'm Old Fashioned」がいいですね。ジャズファンにとってはジョン・コルトレーンによる演奏が有名かも。「私は時代遅れ」という甘い歌詞の曲で、決してドーナツの歌ではありません。非常に美しい旋律を持ったスタンダードですが、「Quintessence, Vol. 1」でチェット・ベイカーの歌伴、「Mad About The Boy」ではシビル・シェパードの歌伴で録音しています。この歌伴2つもかなりいいので、ぜひ聴いてもらいたい。

Spring Is Here

Spring Is Here

 

Affinity

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英文ライナーを読むと、妻のモニカの兄弟ピーター(ペーテル?)のホームパーティでゲッツがセッションしたものをたまたま録音していたというもの。1977年9月20日の録音。これはもう、よくぞ発表してくれました、という内容。とにかくゲッツがリラックスしていてフレーズが素晴らしい。ちなみにこのピーターくん、3曲目「It's You Or No One」でベースを弾いています。

ホームパーティーにはゲッツと演奏したい地元ミュージシャンがたくさん集まっていたのでジャムセッションになるわけだけど、そうすると当然スタンダードやブルースで固めることになる。70年代後半の音色でスタンダード、もう最高です。

「There Will Never Be Another You」は途中で「Split Kick」を引用しながら、とにかく自由気ままに演奏している。

 通常のライブじゃないからテーマも自由自在にフェイクしている。「Polkadots And Moonbeams」の入りがまさにそれ。この曲、ゲッツは演奏するたびにいろいろな表情を見せます。「There Is No Greater Love」もテーマから崩しまくる。もともとテーマとソロの区分が曖昧だったゲッツの本領発揮。

「It's You Or No One」では、ゲッツはソロが終わると曲の途中でどこかに行ってしまって、ピアノトリオのまま4バース&エンディングとなる。コンサートではありえないハプニングも自然体で楽しい。

ほかにもソロが終わったときにゲッツの声が聴こえたり6歳の子どもの話し声が入っていたり、いかにもホームパーティ。リズムセクションは地元のアマチュアが集まったようでピアノもベースも複数人、いい経験になったと思う。うらやましい。ところでゲッツのほかに7人のミュージシャンがいたのだけど、うち3人の名前がLars。「Live In Stockholm 1978」のピアニストもLars。スウェーデンでは多い名前なんですね。この3人のLarsはそれぞれピアノ、ベース、ドラムで、アルバムの4曲がトリオ全員Larsという組み合わせでした。

 

と、どうでもいい話は置いといて、ホームパーティらしくその場には少人数しかいなかったようで、拍手もまばら。拍手がない曲もあり、君たち、ゲッツのプライベートな演奏を聴けるのに拍手しなさい、と言いたくなる。

最後に収録されている「Coda」はウォームアップを録音したものだけど、ゲッツの指慣らしとして非常に貴重なのではないか。

Affinity

Affinity

 

In Sweden 1958-60

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内容としてはヴァーヴの「Imported From Europe」のスタジオセッション全貌にいくつかのライブ音源を加えたもの。ただし厳密にはその逆で、スウェーデンで現地のレコード会社が主導して製作した音源を、アメリカではヴァーヴがまとめて発売した、という流れでしょう。

スタジオ録音の方は、ヴァーヴのアルバムに収録されなかった「Gold Rush」や「Cabin In The Sky」など、お蔵入りさせるのが惜しい演奏がずらりと並んでいる。これだったら、当初収録のアレを落とした方が・・・と思えるほど。別テイク群は一度聴いたらもう聴かないんだけど、とりあえず全貌がうかがえるのはうれしい。

ライブ録音では、ゲッツの演奏としては珍しい「Stareway To The Stars」やワンホーンによる「A Night In Tunisia」など、これまた意外な選曲。「A Night In Tunisia」は微妙にメロディが変わっていることに違和感を覚えずにいられないけどね。

それから「Ah-moore」。もう「Amor」とかタイトルまで亜流が発生していて何が本当かわからなくなるけどw、ヴァーヴ盤「Stan Getz At Large」でゲッツ作とクレジットされていたこの曲、私は「ゲッツ作のわけがない」と言っていたし他のアルバムではアル・コーンのクレジットになっていたこの曲、収録されているライブのMCでゲッツがはっきりと「アル・コーンの曲」と言っていましたw

 

In Sweden 1958-60

In Sweden 1958-60