スタン・ゲッツを聴く

スタン・ゲッツ ファンが勝手なことをいっているブログです。

What The World Needs Now Is Love

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オーケストラ入りのバート・バカラック曲集。バカラックの曲は小節数や拍子が変則的で、そのままジャズとしてやるには適していない曲も多いです。

このアルバム、当初は、バカラックなのに「I'll Never Fall In Love Again」「I Say Little Prayer」「Raindrops Keep Falling On My Head」「Close to You」が入ってないなんて!と思っていたのだけど、これが聴いてみるととても良いアルバム(ちなみにこのうち2曲は2年後に録音された「Marrakesh Express」におそろしくつまらないアレンジで収録されてます)。クラウス・オガーマンのアレンジがいかにも60年代風で、心地良い。ゲッツもかなりエキサイティングなプレイをしており、たらたらしたオーケストラものとはまったく違う。ゲッツのアルバムとしてもかなりお薦め。

名曲「A House Is Not A Home」はちゃんと収録されていて、そこはまた満足。それと特に好きでもなかった「The Look Of Love」もここで聴くと名曲に思える。

 ほかにも、あまりバカラックに詳しくなかった身としてほぼ初めて聴く彼の作品が、ゲッツの名演と相まってすごく良い。このアルバムでのゲッツは硬い音色が強調された曲がありソフトなサブトーンが強調された曲がありで、かなり多彩。幅広くゲッツの録音を聴いていない人にとっては同じプレイヤーの演奏とは思えないかもしれない。

ほんのちょっとの参加なんだろうけど、オケには、ハービー・ハンコックチック・コリアジム・ホールフィル・アップチャーチ、ウォルター・ブッカーなどの参加も。録音は飛び飛びなんだろうけど1年以上かけてるし、けっこうヴァーヴとしては自信作だったのかなとも思っていたら、なんとジャズファン向けでなくイージーリスニングのファンのために作った作品らしい。そうだとすると、ダメですよ、もっとフツーにテーマを演奏するミュージシャンでなければ。ゲッツでは合わない。少しでもアドリブが入ると拒否するリスナーという人種がいることを理解しないとね。おかげで私たちはゲッツの名演を聴けるのだけど。

それにしても、バカラックの曲というポップスゆえか時代のせいかわからないけど、オリジナルアルバム収録曲の半分以上がスイングでないのは、よく考えてみると意外かも。いや、ジャズファン向けでないなら当たり前なのかな。

ところで、CD追加収録の「Tara's Theme」、映画「風と共に去りぬ」だけど、原曲とは4拍ずらして(原曲は頭1拍休みだがこっちは3拍ひっかけ)るし、原曲がトニックで始まるのをこっちはⅡ-Vで始まるし、アレンジがやりすぎていてちょっと閉口する。違う曲なのか?と思いクレジットを見ると、ちゃんと「マックス・スタイナー」と書いてある。

バカラックの曲ではないからオリジナルアルバムには収録しなかったというのはわかるが、そもそもなぜ録音したのか?根拠はないけど、もともと非ジャズファン層向けの企画なので、「Tara's Theme」やバカラックのいくつかを最初に録音したあとでやっぱりバカラックオンリーにしたのではないだろうか。「うーん、ダメだ。バカラックだけにしよう」と思ったのか「試しにタラのテーマ演奏してもらったけど、予想どおりダメだね~バカラックだけでいこう」と思ったのかはわからない。

プレイズ・バート・バカラック+4(紙ジャケット仕様)

プレイズ・バート・バカラック+4(紙ジャケット仕様)

 

The Master

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録音したのはフュージョンもやっていた1970年代なのに、なんの工夫もなく単なるカルテットでバリバリ吹きまくっているというアルバム。それがまた素晴らしい。骨太のゲッツが伝わってくる。全4曲。いかにも硬派なジャズ。地味な印象ながらかなり上位に来る傑作アルバム。ピアノがアルバート・デイリーでなければもっと良かった。
でもこの「まさにジャズ」というのがよくなかったみたいで、せっかくこんな傑作を吹き込んだのにコロンビアの経営層は「ゲッツのストレートアヘッドなジャズは売れない」と考えて、なんと1983年まで発表しなかったのだから驚き。何を考えているのやら・・・

1曲目「Summer Night」からゲッツが引っ張る引っ張る。インテンポになってからの熱量がすごい。

2曲目「Raven's Wood」はビリー・ハートのシンバルにより超絶スピードで始まり、ゲッツが縦横無尽に吹きまくる。久しぶりに50年代のようなアップテンポなんじゃないのかな。こういう曲で畳みかけるようなフレーズを吹くのがゲッツの特徴ですよね。決してフュージョン的な攻め方をせずに。

3曲目「Lover Man」は慣れた曲だけあって、好き勝手に料理している。ラスト、ゲッツのお決まりのパターンでピアノによるエンディングになるんだけど、そこからのデイリーが長い。終わりそうで終わらない。うんざりする。もうやめろ、と言いたくなる。名盤なのにデイリーが台無しにしていると言ってもいい。

そして「Invitation」。これ、ジャコ・パストリアスがやっているように、歌曲とは思えないおどろおどろしいメロディだよね。ベースがぐいぐい進みゲッツは「My Foolish Heart: Live at the Left Bank」同様ノリまくったソロをとる。

とにかく超強力なストレートアヘッドなジャズ。70年代のゲッツをフュージョン寄りでダメと片付ける人は、まずこれを聴いてほしい。

 

ザ・マスター

ザ・マスター

 

The Steamer

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とにかく名盤。派手さがないものの、大傑作だと思います。

1曲目「Blues For Mary Jane」が、さっそくシブくまったく派手じゃないけど、とにかくゲッツが延々と絶好調なソロを展開する。ボーッとしてるとこのプレイの凄さに気付かずに終わりますので気を抜かずに。

これはすごいと思っていると続いて「There Will Never Be Another You」がまたすばらしい。参考になるフレーズが多すぎて、これはトランスクライブ向きです。ゲッツのメロディが止まらない。興味深いのが、過去に録音した「Split Kick」とアプローチが全然違うということ。ともするとコードが同じ曲は、私たちアマチュアは同じアプローチになってしまいますが、ゲッツはテーマに合わせたソロを展開するのだから、素晴らしい。

さらにバラード「You're Blasé」。まるでゲッツのために書かれたと思うほどの名演。エラ・フィッツジェラルドの歌伴で知ったと思われるこの名曲、ゲッツ以外の演奏は聴いたことがないけど、80年代のライブ盤「Spring Is Here」でもいい演奏を残している。ある意味、ゲッツのバラード美の極地。全ては最初の2音に凝縮されている。

 

もうこれは無条件降伏しかないなあと思っていると、後半は「Too Close For Comfort」「Like Someone In Love」と、申し訳ないけど気を抜くことができる曲が続く。ソロは前半と同じく良いけど、テーマがちょっとずっこけるでしょ、この2曲は。

そうはいっても最後には「How About You?」。たたみかけるようなゲッツのフレーズがすばらしい。そういえばこの曲も「Spring Is Here」に収録されていたなあ。

 

The Steamer + 6

The Steamer + 6