当時の欧州ツアーの録音。CD後半4曲のドイツやスイスの録音はすでに発売されているものだし(「LIve in Düsseldorf 1960」「SWISS RADIO DAYS JAZZ SERIES, VOL.29」)、この頃はほかにもスウェーデンやデンマークなどいろいろな録音が残っているので、すべて保有済み音源かと思っていたら、冒頭の7曲のオランダでの録音は未発表だった。コレクターでありながら自分が保有している音源について詳細に覚えていられないので、あやうくスルーするところだった。
ピアノにヤン・ヨハンソン、ベースはレイ・ブラウン、ドラムはエド・シグペン。オスカー・ピーターソン・トリオのピアニストだけ代わったというところですが、これに先立つJATP公演にはオスカー・ピーターソンのトリオが参加していて、ゲッツは地元のヨハンソンを連れてベーシストとドラマーを一時的に借りてツアーに出たのでしょう。どうせならピアノもそのままでいてほしかったけど、ギャラが高いのでケチなゲッツが安い方を選んだのだと思います。自分のネームバリューで客を呼べるわけですし、ウエストコーストのピアニスト、ラス・フリーマンによれば「自分がキングでいい演奏ができれば、あとはどうでもいいって感じ」とのことですから。
で、実際の演奏は「これ聴いたことあるんじゃないの?」と思うほど当時のお約束のレパートリーにイントロ、ストップタイムといういつものゲッツ。この時期の欧州ライブにおけるいつものゲッツということは、とても素晴らしい内容ということ。いや、録音状態もいいし、この時代の欧州ツアーの中でもかなりいい内容。レイ・ブラウンとエド・シグペンのサポートはすばらしく、非常にスイングする。
まずは「Out Of Nowhere」で手慣らし、自由自在に飛び回る。それから暗~い「The Thrill Is Gone」。この曲はそれほど好きでもないので気を抜いていると、「Lover Come Back To me」から快調に飛ばす飛ばす!ああ、このテイクは初めて聴く、似ているようでやっぱり他の欧州ライブとは違うなあと、ようやく実感できました。ここからがすごい。30年以上使用するストックフレーズをイントロに持ってきた「Gone With The Wind」や単に突っ走るだけではない、珍しくテーマメロディを吹いている「Cherokee」など、やはり1960年の欧州ツアーの演奏はどれも絶好調。「Cherokee」についてはアフロリズムも取り入れたミディアムファーストテンポで、これこそまさに「湧き出るが如く」というフレーズの連続。超高速で飛ばす他のテイクより、こっちの方が名演。まあとにかくゲッツの最盛期はこの時代なんじゃないのかと思うくらい。このあと帰国して、翌年には「Focus」を経てボサノヴァイヤーズに入るわけです。