スタン・ゲッツを聴く

スタン・ゲッツ ファンが勝手なことをいっているブログです。

This Is My Love /Kimiko Kasai

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ゲッツは3曲参加の1975年録音、ゲッツのほかにはなんとギターがコーネル・デュプリーとジョー・ベック(ジェフ・ベックではない。フュージョン好きならわかるはず)。不健康な表情のジャケットに気後れするけど、いいアルバムです。

まずはドリヴァル・カイーミの「Das Rosas」、英題の「And Roses,And Roses」というタイトルで収録されてます。クレジットにレイ・ギルバートの名前を見つけて殺意がわきますが・・・あの名曲がデュプリーのカッティングによる16ビートに様変わり、とにかくゲッツが吹きまくる。歌がすべて終わってからも何度かストップを挟んでゲッツのソロが展開される。前半でゲッツにリフを吹かせているプロデューサーのテオ・マセロは怖いもの知らず。1分38秒くらいから2分くらいまで、ここだけゲッツ以外の誰かに代わったんじゃないかと思うほど、ゲッツらしくないプレイになりますが。

ほかの2曲は参加しているキーボード奏者ボビー・スコットのオリジナル曲。「I Wish  I Could Walk Away」はあまり前面には出てきませんが8ビートに乗ってゲッツが快調なソロを吹きます。最初は歌伴ということでバックで抑え気味ながら、それでもあまり遠慮していない。

「LIttle Things」は、ある意味レア。真ん中に少しゲッツのソロが入るんだけど、全編にわたってR&Bのようなバックリフが入る。これ、吹いてるのはゲッツなの?そうだとするとやはりさすがというか、神をも恐れぬテオ。ゲッツにこの仕事をやらせるとは。録音が少々ドライで、ゲッツなのかな、と思うときもあるんだけど、このセッションに参加してるのはゲッツなんです。このアルバムの別のセッションならアル・コーンが参加してるんだけどね。やっぱりゲッツなんだよな?こっちはまだゲッツなんだと思える要素もあるんだけど、上述「And Roses,And Roses」のソロ後半はやっぱり急にプレイヤーが変わったかのように思える。ディスコグラフィーに疑問が残るアルバムではあります。

 

マイ・ラヴ

マイ・ラヴ

 

Stan Getz At Storyville

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レコードで2枚だったものをCD1枚にカップリング。ちなみにVol.2のジャケットはこちら。

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Vol.1は色が裏返し、Vol.2は(間違いで)左右が裏返し。

 

私は、下のデビッド・ストーン・マーチンによるイラストのジャケットよりネガフラッシュのほうが好きです。

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このライブは、数あるゲッツの50年代初期の録音の中でもダントツですごい。まさに湧き出る泉のごとくというべきフレーズ。CD前半のVol.1の方はテンポが速い曲が集められ、畳みかけるような「The Song Is You」や「Parker 51」などは圧巻。「Move」のドラムソロのあとの歓声はよく知られています。このアルバムを聴くと自分で演奏するのがイヤになるくらい。このとき、まだ24歳ですよ。まさに天才ですね。短いモチーフを少しずつ変化させながら繰り返すのも、この時代のゲッツの特徴。

しかし何といっても「Pennies From Heaven」が最高でしょう。ギターやピアノのソロはなく、ゲッツが最後まで吹き切る。キーはコンサートでDというあまりない選択、淡々としながらも実は割と速めのテンポ、この中からいくつかフレーズを拝借しました。符割、シンコペーションはすごく参考になります。このアルバムはジャズ史の奇跡と言えるかも。ここで聴かれる演奏のすごさはチャーリー・パーカーの録音なみに凄まじいものです。

 

後半のVol.2はわるくないけど、当初発売されたVol.1と比べるとやはり一旦お蔵入りになったのが納得できる演奏。バラードが2曲入っていますし。こう見てみると、Vol.1のプロデューサーの好みが面白いですね、バラードの録音も残っていたのにほとんど速い曲だけを先に発表したというところが。

冒頭「Hershey Bar」は名曲名演ながら、フェイドアウトすればいいのにわざわざテーマをぶつ切りして強引に拍手の音をつなげている。ウェス・モンゴメリーのハーフノートライブ並みの失敗編集です。演奏そのものはいいのに、この編集でダメトラックになってしまった。

「Signal」はジミー・レイニーの玄人向け作品。プレイは簡単そうで簡単ではありませんが、この時代の作曲としてはかなり秀逸で、いいフレーズがどんどん出てきます。

「Jumping With Symphony Sid」は後年の「Stan' s Blues」のメロディから始まる。この部分は誰が作曲したのかな。

それと、「Signal」「Budo」の別テイクや未発表曲「Wildwood」がいつの間にか発掘されていましたね。「Complete Roost Recordings」に収録されています。やっぱり発表済みテイクとは全然違っていて新鮮です。

 

アット・ストーリーヴィル1&2

アット・ストーリーヴィル1&2

 

Stan Getz In Warsaw

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このアルバムの前半5曲は、ゲッツの音源の中でももっとも多くのCDで聴けるものの1つといえる。マニアは5曲のタイトルを見ただけで、「あ、1960年のあのライブ音源ね」とわかる。知ってますよね?私は「ワルシャワ5」と名付けているw ちなみにもう1つの「もっとも出回っている音源」は1980年のライブ。

さて、前半の5曲についていえば、ライブというタイトルとは裏腹にラジオ用なのか聴衆の気配はまったく感じられない。で、とんでもない名演。特に「But Not For Me」の8小節あとから入ってくる瞬間などゲッツの生涯の名演奏ベスト10に入るのではないかと思うくらい。少しテンポを落とした「Cherokee」は速すぎない分勢いだけではないしっかりと練られたメロディを紡ぎだし、ストップタイムを多用して飽きさせない仕掛けになっている。全体的にゲッツの音色もきれいに録れている。

後半の1974年ライブはちょっと残念な内容。トム・ジョビンのメドレーは、いくらボサノヴァもどきでもかまわない、と言ってもさすがにオフビートの強調やドラムのテキトーさがひどい。でもこのボサノヴァ最初期の2曲をメドレーにするなんてけっこうセンスがいいし、ゲッツが1970年代に入ってこんな過去のボサノヴァ人気を利用した演奏をすることが意外です。この頃って「Garôta De Ipanema」をリクエストされると怒ったという時代でしょ。

「La Fiesta」は厳しい。チック・コリアのものとは比べものにならないほど曲を理解していないアルバート・デイリーのイントロ、そしてテーマを理解していないベースとドラム。ゲッツは最初はいい感じでソロをスタートするけど後半は無理やり盛り上げて終える。やっぱり乗り切れていない。そしてデイリーのソロ。ジャズのソロというよりラテン音楽のバリエーションと言うべきつまらない打鍵が約5分続く。デイリーはいつもその曲を理解せず単に演奏の素材としてしか扱わないところに欠点がある。

そいうえば昔「バラードの曲想に流されずを単に素材として扱う」ということをほめ言葉として使っている評論家の文章を読んだことがあるけど、曲想を理解して単なる素材にならないようにする方がよっぽど大切だと思うんだけど。

 

Stan Getz In Warsaw

Stan Getz In Warsaw