スタン・ゲッツを聴く

スタン・ゲッツ ファンが勝手なことをいっているブログです。

West Coast Live/Chet Baker & Stan Getz

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ゲッツは1953年5月の後半から9月まで、西海岸で過ごした。だからこの時期には西海岸録音が固まっている。スタジオ盤では「More West Coast Jazz」「Norman Granz Jam Session 3」や「Stan Getz '57」など。そして合間に急遽決まったライブに参加したりした。このアルバムのほか「 Stan Getz And The Lighthouse All-Stars」など。

ゲッツはジェリー・マリガンの代役で急きょ参加したそうだけど、エキサイティングな演奏でこのままレギュラーでも良かったと思える内容になっています。本当にラッキー。チェット・ベイカーのミュージシャンとしてのピークは1952年~1953年のわずか2年間。これからだんだん演奏がつまらなくなってくるチェット・ベイカーもトランぺッターとしてのピーク期の演奏で、1980年代以降の共演のような、ストレスがたまるような演奏内容ではない。歌ってもいないし。というより、この時期のチェットを聴いてると、彼はやはり一種の天才であることがわかる。マリガンとチェットのスタジオ盤にも入っている「Bernie's Tune」とかは、やっぱりゲッツとのこの共演よりもそっちのほうがしっくりくるけど。

曲目はマリガン・カルテットのレパートリーや、チェットが大好きなマイルス・デイヴィスの初リーダーセッションからの曲などもあるけど、よく見るとゲッツの当時の十八番である「Yesterdays」「Move」「What's New」「The Way You Look Tonight」なども混ざってる。急に決まった代役なら2管のからみで聴かせるマリガン・カルテットの曲は厳しかったか。それもしょうがない。とはいえ、ゲッツ寄りの曲でもちゃんとチェットにも花を持たせている。実際のライブが真夏なのに「Winter Wonderland」を演奏しているのがなんとも不可解だけど、まるで同時期のクール派のように、淡々と畳みかけるような演奏で聴衆を圧倒している。とにかくジャズの凄さが伝わる演奏。ゲッツは「Strike Up The Band」と「The Way You Look Tonight」でコール・ポーターの「Anything Goes」を引用している。ゲッツが「Anything Goes」をまともに録音したのは、マリガンとの共演アルバム「Getz Meets Mulligan In Hi-Fi」だけ。本アルバムがマリガンの代役のライブであることなどを考えると、なんとなくおもしろく感じますよね。

CDは2枚組。以前はディスク1と2を別々に発売していました。ディスク1はアップテンポを中心とした、ピアノレスの、クール派的なかなり知的で硬派なジャズが聴かれる。まったく妥協なし、ある意味ビバップより排他的。同じピアノレスカルテットでも、マリガンとチェットの場合はリスナーに寄り添う姿勢が見えていたのに、ゲッツに代わると、ゲッツの演奏自体難解でもないし相変わらず万人ウケするほどのすばらしさを持っているのにこんなに玄人向けになるのはなぜでしょう。

ディスク2のほうはピアノが参加した曲も入っている。「All The Things You Are」は2テイク入っているけど、最初のテイクは不出来で盛り上がらずに終わります。後のテイクは音質が悪くゲッツがふらふらしているような印象ながら、フレーズ自体はけっこう秀逸。間にチェットのソロなどを挟み、結局ひとりでソロを3回も。これはコピーしてけっこうフレーズ練習したものです。

 

ところで上でも少し言及したけど、チェットは、マイルス・デイビスの初リーダー録音の4曲が好きだったんだろうな、と思う。ここでは「Little Willie Leaps」「Half Nelson」をやっているし、1983年の共演盤「The Stockholm Concerts」では「Sippin' At Bells」そしてあの「Milestones」をやっている!

ちなみにこのジャケット、マリガンとの有名な写真を絵にして、マリガンのいた場所にゲッツを描いているんですよね。チェットは普段着の上着なのにゲッツは蝶タイの正装で違和感だらけ。参考にした写真が正装だったんだろうけど、せめて服装くらい変えて描けば良かったのにw

West Coast Live (The Performance Series)
West Coast Live (The Performance Series)