スタン・ゲッツを聴く

スタン・ゲッツ ファンが勝手なことをいっているブログです。

Focus

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いわゆるジャズの「ウィズ・ストリングス」とはまったく違う、独特のサウンドを持ったアルバム。ムード音楽的要素は皆無なので、ストリングスものが嫌いな人も安心して聴ける。逆に、ムード的なものを求めている人にとっては「だまされた!」感たっぷりだろう。はっきりいって普通のジャズとはかなり違う、ジャズの歴史の中でも異端児的なアルバム。期待して聴くとガクッと来るけど、期待しないで聴くとすごく良いと思える。何といえばいいのか、今聴いてもまったく新しいタイプのジャズ。いや、ゲッツのソロがあればなんでもジャズであるとは限らないから、これを「ジャズではない」と断定する人がいてもおかしくないし、その意見を否定はしない。

 実母の逝去でスタジオ入りできなかったため、全7曲中4曲については、実はゲッツだけオーバーダビング。どれがそうなのかはわからないけど、曲によってはオーバーダブでないと絶対ずれるだろうなという瞬間もあり、それはそれで成功要因の1つと言える。コード進行に基づいて演奏したのでなく、ストリングスによるモチーフに自由にからんで演奏したものであり、評伝ではこれをオーネット・コールマンの手法だと表現している。

テーマメロディがなくゲッツが自由に乗って吹いているというものだけど、聴いているかぎりでは行き当たりばったりではなく、最初にバックトラックを聴いて曲想をつかんでいるということ、それから弦の楽譜を見て(おそらく演奏中にその楽譜を見ながら)弦に絡んだ、弦に合わせた演奏をするように心がけている。

ゲッツ自身が最も楽しかったレコーディングと言っている本作。コードに基づくのではなく(厳密なことを言うと、和音進行自体はあり、それをコードで表現していないだけ)メロディに合わせてアドリブをするという、ある意味オーネット・コールマン的(というよりソニー・ロリンズかな?)な試みだったらしい。結果的に評伝ではこのアルバムの収録を回想して「最も誇りに思っている。あれは大変な努力を要した。音楽がまったく書かれていない、ただ僕のキーに楽譜が移調されているだけのストリングスに合わせて演奏するというのは。」と言っている。こう言われると嫌でも期待してしまう。で、最初はガクッと来るんです。

 シングルカットまでされた1曲目が注目されるだろうけど、一番かっこいいのは「Night Rider」ではないかな。後年のライブで演奏する「The Knight Rides Again」の元ネタ。これはイントロからぐいぐい迫る。

これだけは言っておくと、とてもいいアルバムではあるんだけどゲッツが最高に楽しかったと評価してもそれがリスナーの好みと一致するとは限らないと思います。もっといいのがたくさんあるでしょ!と言いたい。

Focus + Cool Velvet(import)

Focus + Cool Velvet(import)