スタン・ゲッツを聴く

スタン・ゲッツ ファンが勝手なことをいっているブログです。

Schuur Thing /Diane Schuur

Sure Thing (Album Version)

ゲッツが応援していたというダイアン・シューア。このアルバムでは2曲に参加。まずは「It Don't Mean A Thing」。クイーカを入れたサンバ風リズムで、歌は早々に終わりすぐにゲッツのソロにチェンジ。バッチリのソロを聴かせたあとは歌との2小節交換(4分の2でカウントして)。シューアのフレーズを拾うところもあり、インタープレイを繰り広げる。

そしてなんともう1曲はイヴァン・リンスの「Love Dance」をやっている!あの超名曲兼超難曲をゲッツの演奏で聴けるとは。これはいい意味でトンデモゲッツの上位にランクされますよ。イヴァンの原曲(アメリカ盤のアルバム「Love Dance」ではなくブラジル盤「Daquilo Que Eu Sei」に収録されている方)とは違い、幻想的な雰囲気。そう、むしろどちらかというとイヴァンのアメリカデビュー盤に近いムードかな。ゲッツは間奏ソロとラストのメロディからオブリをつけるという程度だけど、それでもいいものを聴かせてもらったなあ。まさに名曲名演とはこのこと。典型的なGRPサウンドが非常に心地よい。GRPのサウンドって実はゲッツに合うんですね。

ちなみに、ゲッツの評伝では著者が「さして面白くないバラード」と言っている。ははは、この曲のすごさがわからない時点で、評伝の著者はアウトです。随所にそういう箇所があります。

 

Schuur Thing

Schuur Thing

 

England 1958 / Chicago 1957

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「The Great English Concert」と「The Titans」のゲッツ参加トラックを集めたもの。これがCD発売されて喜んだコレクターは多いはず。

The Great English Concert

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ジャケットのゲッツは珍しくオットーリンクのメタルを吹いている。

1958年の録音は、録音マイクが遠いような感じで、聴こえづらい。客席の後ろに置いてあったのかと思うほど。曲によっては改善されているけど。

1曲目「Love Walked In」は珍しい選曲、ベースとゲッツのお互い無伴奏による交換が興味深い。「We'll Be Together Again」はあいかわらずゲッツのためにある曲かと思うほどしっくりくる演奏。

 

後半は1957年の録音。リズムセクションがMJQの面々で、フロントは「For Musicians Only」の3人。あのアルバムが全編緊張に満ちた内容だったので、1曲目「Now's The time」のあまりのリラックスぶりにずっこける。いい演奏だけど、ゲッツがちょっと空回りかな。でも「Wee」はゲッツが最も自由自在なフレージングをしている。ほかの2人はうまくこなしているけど枠にはまり過ぎている感がある。

このライブでは3人のバラードをフィーチャーしていて、コンサートのプロデューサーはノーマン・グランツなのかもしれない。

 

England 1958

England 1958

 

Complete Live At Montreux 1972

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映像作品も出ている、あの「Captain Marvel」のライブ盤ともいえるアルバム。もともとCDではめちゃくちゃな曲名で「Portrait」として発売されていました(ちなみにDVDとは曲順が違います)。

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スタジオ録音と違ってアイアート・モレイラがいないのは幸か不幸か。「コンプリート」と言っておきながらCDにはワルシャワでの1974年のライブ音源も追加収録されています。

 

さて、どうしてもスタジオ録音と比べた聴き方になるのはしょうがない。でも、音質は悪くてもメンバーのハチャメチャ度はかなり上がっている。特にベースのスタンリー・クラーク。至るところでダブルストップも含めてやりたい放題。トニー・ウイリアムスも、出たり入ったり、行ったり戻ったりという得意のプレイを好きなだけやっている。世代が違うこともあり、ゲッツのソロが終わると、トニーがハービー・ハンコックなんかとマイルス・デイヴィスのバンドでリーダーを置き去りにして好き勝手やってたのと同じシチュエーションが再現されることも。いえ、ゲッツの後ろでも怖いものなしに自由な演奏をしています。こりゃあゲッツがメンバーを強く慰留するわけだ。

冒頭1曲目、いきなりスタジオ録音よりゆっくりの「Captain Marvel」が。「ジャズは同じ曲をやるたびにだんだん速くなる」という「Nardisの法則」に従わないんだから。これが、テンポが遅いから気づきにくいんだけど、スタジオ録音よりもかなりエキサイティングなことをしている。ここでのスタンリーはウッドベースでこのライン、常識外で想定外。

Windows」はゲッツのスタジオ録音よりもすばらしい出来かもしれない。あの超名演「Sweet Rain」のヴァージョンを超えるのか。やはりベースとドラムがスタジオ録音のときとは違うからか。まあ、同一ラインに並べて超える超えないというのでなく、趣向が違いますね、それがおもしろい。スタジオ録音の方はだんだんと盛り上げていくのが良かったけど、こちらは最初からリズムセクションが煽りまくってゲッツも全開プレイ。

「 Time’s Lie」はチック・コリアによるカリプソ風ソロがスタジオ録音に比べてイマイチ。あちらは奇跡的名演でしたからね。でもこの曲ではコリアのバッキングでトニー・ウイリアムスがソロを繰り広げるという展開がかなりカッコいい。聴きごたえある。その迫力はスタジオ録音をはるかに凌ぐ。チックが抜けたあとのゲッツの他のライブ録音と比べてみてください。私がこのブログのいろんなところでダメ出ししている理由がわかるでしょう。

歪んだローズによる「I Remember Clifford」もいいですね、この曲をチックとスタンリーはまったく遠慮せず自分色に染めています。続く「Lush Life」が普通に聴こえるほど。

「La Fiesta」は後年のパターンに通じるかっこいいイントロがついているけど、ゲッツは若干乗り切れていない様子。というか、ゲッツは結局この曲は初演以外乗り切れていないような気がする。それでもリズムセクションが強力だから、これより後年のどの演奏よりもいいですけど。スタンリー・クラークが最後のリフへの戻りを間違ったりラストでフライングするあたりはご愛嬌。

全体的にチックの音が小さいけど、実はこのアルバムはスタンリーとトニーを聴くアルバムだと思います。特にスタンリー、1曲目から縦横無尽に動き回り、すごいビートを聴かせます。でもスタンリーって、バッキングはすごくいいのにソロはどれも同じに聴こえてつまらないんですよね。そう思うのは私だけ?

 

Complete Live at Montreux 1972

Complete Live at Montreux 1972