スタン・ゲッツを聴く

スタン・ゲッツ ファンが勝手なことをいっているブログです。

Captain Marvel

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硬派なジャズファンの間で「ジャズが好き」といって、「スタン・ゲッツが好き」といったら、「君は何もわかっていない」といわれる。

スタン・ゲッツのファンの間で「キャプテン・マーヴェルが好き」といったら、「おまえは何もわかっていない」といわれる。スタン・ゲッツフュージョンは合わないという意見があるが、そんなことはない、これはすごく良いアルバムですよ。メンバーはチック・コリアスタンリー・クラーク、トニー・ウイリアムス、そしてアイアート・モレイラ。とんでもないスタープレイヤー揃い。ジャズ界にはいろんな「最強バンド」がありますが、このクインテットも最強バンドの1つでしょう。ちなみに、最強バンドとしてほかにはマイルス・デイヴィスセクステットジョン・コルトレーンキャノンボール・アダレイビル・エヴァンス等)とクインテットハービー・ハンコックウェイン・ショーター、トニー・ウイリアムス等)、チック・コリアの第2期リターン・トゥ・フォーエバー(スタンリー・クラーク、アル・ディメオラ、レニー・ホワイト)などがあります。

それにしても、本当にチックはいきなりジャズの地平線に現れた宇宙人だなと思いますね。プレイもさることながら、作曲がそれまでのジャズミュージシャンとはまったく違う。

アルバム冒頭の「La Fiesta」は、まさに「いきなりクライマックスから始まる」というべきもの。ゲッツ自身の他のテイクはおろか、ほかのどのミュージシャンによる演奏と比べても最高。少し音量を絞ったチックのイントロからアイアートのパーカッション、スタンリーのグルーブ感たっぷりのベース、そして超重量級なトニーのドラムスが入る。

この初演版では、テーマの後半、メジャー部分で繰り返すときにオクターブ上げるところが最高にかっこいいよね。他のプレイヤーやゲッツの他の演奏でもそれはなく、ここでしか聴かれない。アイアートが脇役に徹していることでサウンドの幅が広がっている。トニーがテーマメロディに合わせてシンクロしてシンバルを叩く瞬間がたまらない。そしてエンディングの、スタンリーのベースによる余韻まで、約8分20秒が完璧。

「La Fiesta」にかぎらず、チックの他の佳曲もここでのテイクが最高なんじゃないかな。「500 Hundred Miles High」でチックによるルバートのイントロが一転、ひっかけメロディでインテンポになったところでトニーが「ドカドカドカドン!」と入ってくる、ここがまたかっこいい。

アルバムタイトルにもなった「Captain Marvel」、ここでのゲッツの8分音符によるフレージング、これがゲッツのフュージョンタッチの曲へのアプローチ方法の基本だと思ってください。これを聴いて私はビビビッときました。はっきり言って、8ビート曲へのアプローチとしては器用でないんですよね。すごく技術があるのだけど。もっと若者ウケするようなプレイもあるわけです。しかし、だからこそゲッツがゲッツであり、フュージョンをプレイしても個性的であって名演になっているのです。この曲は小節数が一般的でなく、割と演奏に苦労する曲なのに、あまりにも自由に演奏できるゲッツがすごい。

それからアルバート・デイリーの駄演でおなじみの「Times Lie」、初演であるここでのチックのソロは、3度を弾かないスタンリーのベースラインに乗って、チックが自由にコードを設定、メジャーの部分でのカリプソ風ソロとか、聴きどころは満載。この曲、ゲッツが70年代のレパートリーにしてデイリーにも何度も弾かせていましたが、ちゃんと曲を理解して演奏していたのはやはり作曲者のチックだけでした。

フュージョン嫌いの人がこのアルバムを「フュージョン」と片付けてしまうのは、ジャズファンとして料簡が狭いと思います。フュージョンファンにしてみればこのアルバムはアコースティックピアノでなくローズを使っているというだけであり、基本的にはいい意味で普通のジャズだしね。今聴いてもまったく色あせない、非常に高レベルの名盤。さらにトニー最盛期の演奏の1つ。そして場違いな「Lush Life」。こういうものの存在はいつものゲッツ。

なお、チックのバンド「リターン・トゥ・フォーエバー」ではアイアートのドラムスが軽すぎるという評価がなされるけど、こっちでは彼がパーカッションに徹している分、いろんなブラジルパーカッションが聴けてよい。「Times Lie」ではクイーカも聴こえる(ちなみにアイアートのクイーカはブラジルの専業者に比べるとやはり劣っている)。

ジャズ批評では「メンバーは元気よくやっているのにゲッツが乗り切れていない」と書かれているけど、へえ、人によって感じ方は違いますね。「(スタンダードの)Lush Lifeのみいい演奏だ」とかいう意見には本当に驚いた。ちょっとジャズに対する感覚が古すぎるのではないでしょうか。もしくは先入観が強すぎる。私はここでのゲッツは自分なりのフュージョンアプローチを身につけて、フュージョンシーンにおいてもしっかりとした個性を提示しながらいつものように自信たっぷりに、余裕を持って演奏しているように聴こえる。だからこそ、このあとアルバート・デイリー時代にもチックの曲を演奏し続けたんじゃないのかなあ。

ちなみにCD追加曲の「Cristal Silence」もジョー・ファレルのものとは違い、やっぱりゲッツ!という演奏です。ボーナストラックで嬉しいものはあまりないけど、これは良かった。

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