スタン・ゲッツを聴く

スタン・ゲッツ ファンが勝手なことをいっているブログです。

People Time

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なんだかんだいっても、私が一番好きなゲッツのアルバムがこれです。「ベースとドラムがいないなんてジャズじゃない」という評価も耳にしますけど。ラストレコーディングということに思いをはせると、聴くたびに涙が出てくる、そういうアルバムです。2枚組ですが、まったく長く感じません。いつまでも余韻浸りたい。

スタンダードが中心なので買うときはまったく期待していなかったのに、いざ聴いてみると、こんなにすばらしいジャズはないと思えるほどの美しさ。冒頭の「East Of The Sun」の最初のフレーズからノックアウトされます。そして「Night And Day」。50年代の録音とはまったく違うアプローチで、アッパーストラクチャーを連発したフレーズがすばらしい。それから「Gone With The Wind」でのソロ冒頭ストックフレーズ、これは昔からゲッツが吹いていたお決まりのフレーズなんだけど、このラストレコーディングが一番はまっています。この演奏のために今まで何十年も練習してきたんじゃないかと思えるほど。ちなみに「I Remember Criford」のカデンツァのメロディも50年代から吹いているストックです。

スローナンバー「First Song」が評価されているけど、ゲッツファンとしてはこの曲が一番つまらないといえるほど他の曲が良いのです。例えば同じスローでもしっとり聴かせて盛り上げる「I'm Okay」が絶品。後半、高音でゲッツのテナーが泣き、少し間があくところにピアノがすうっと入るのが切ない。「People Time」は多くの録音が残っているけど、ケニー・バロンのタイムの取り方に特徴がある、このアルバムでのテイクが最高かな。スコアは出回っていないので、採譜してライブで演奏したことがあります。

指が速く動かない時期の録音ですが、その分フレーズのおもしろさは格別です。曲ごとに攻め方のバリエーションがあり、上に上げたもののほかにも「Like Someone In Love」や「The Surrey With The Fringe On Top」でも個性的なフレーズを連発。バップフレーズだけでない、ゲッツのこれまでのキャリアに裏打ちされたフレーズが多彩。ジャズは年齢がものをいう、ということがよくわかるアルバムです。

 ラスト3曲がマイナー3連発で、この美世界とゲッツの寿命が終わることの悲しさを暗示しているようです。ラスト前の「Hush A Bye」で運命を振り切ろうとして、でもできなかった、というような物語を勝手に感じています。ゲッツは「Hush A Bye」のメロディを完全に変えています。その場のフェイクでなく、まったく新しくしています。アルバム「Soul Eyes」でも原曲とは違うメロディにしていました。

アルバムの最後はバラードの「Soul Eyes」、70年代以降(かな?)のゲッツのバラードの特徴でラストはゲッツがテーマに戻らずピアノソロがリタルダントして終わるんですよね、これも何かを暗示しているみたいですごく寂しくなる。だからこそアルバムの構成としてすごく優れているなあと思います。

ちなみにブックレットの写真に、どうやらリードをばらまいているようなものがある。よくわからないんだけどバンドーレンのようにも見えるんだよね。ゲッツがどんなリードを使用していたか気になるところ。

 

 

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