スタン・ゲッツを聴く

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Bossas & Ballads: The Lost Sessions

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「Bossa」という言葉にはボサノヴァという意味はなく、「Bossa」という音楽があるわけでもないので、この「Bossas & Ballads」表現はこのアルバムの内容を伝えるには不適当らしいですが、ゲッツのバラードとボサノヴァを中心に録音された1989年の未発表セッションだったものが10年以上経って発表されたのがこれです。あまりにもクオリティが高くて、どうしてこれが未発表だったのかと誰もが思うはず。A&Mと契約して最初のレコーディングがこれだったのに。

もしかしたらアルバムタイトルを見て「お、晩年になってゲッツが再びボサノヴァ回帰?」と思う人もいるかもしれません。しかし、ドラマーのヴィクター・ルイスは徹底してボサノヴァを叩いていません、単なるソフトな8ビート。最初からボサノヴァ曲だと捉えていません。それをジョージ・ムラーツのベースでなんとなくボサノヴァ風にしているだけ。ボサノヴァ側とされる曲もケニー・バロンのオリジナルであり、ブラジルの曲ではありませんし、スペイン語もどき(ちょっと間違っている)の曲名もあるし。これは批判でなく、これでいいのです。とにかく、このバロンの曲がいい。珠玉のメロディというわけではありませんが、コード進行が切なさ(もしかしたらサウダーヂ)を秘めていて、ゲッツのソロがとにかく調子がいい、すばらしいのです。どれもメロディ面では80点くらいの出来。キラリと光るものはあるけどスタンダードにはなり得ない、「Voyage」のころから彼の作風はそういう、優・良・可でいうと絶対に不可ではないけど優でもないというものばかり。でもゲッツのソロが乗ると、その曲は一気に超名曲に生まれ変わる。

 普通に聴くとかったるいはずの「Yours And Mine」は、ゲッツの演奏で文字通り生まれ変わる。これはゲッツでないと名演にできない。「Soul Eyes」が2テイク収録されているけど2番目は最初ピアノとのデュオで始まる。こっちの方がかっこいい。

 

未発表の理由として、一応「すぐにアルバム「Apasionado」の企画にかかりきりになり、こっちの録音のことは忘れてた」みたいなことも言っている。ライナーには「(当時録音したレーベル)A&Mはストレートアヘッドなジャズを売るレーベルではなかったんだ」と書いてあるけど、それなら最初から録音しなきゃ良かったはず。このコメント、プロデューサーでありA&Mレーベル創始者でもあるハーブ・アルパートのものですから、逆に信憑性があるのかないのか、実際に「Apasionado」の方がA&M向きだろうけどなんとなく別の理由もあるのだと思う。録音してから気づいた理由が。例えば、ボサノヴァ(もどき)とバラードが交互に配置されている、配置がこれでなくても「ボサノヴァ(もどき)とバラードだけというアルバムは、ゲッツの演奏は完璧に近くてもなんとなく聴いていてだれてくるかもしれない」という考え方があったかも。それもあった、つまりプロデューサーのコンセプト設定に無理があったのではないか。しかし聴いてみるとわかりますけど、全然だれないのです。すごい。

  ところでジャズ批評では「Beatrice」をやたらと高く評価していたけど、これってそんなに名曲かなあ?むしろこのアルバムの中で一番どうでもいい曲が「Beatrice」だと思います。

Bossas & Ballads: The Lost Sessions

Bossas & Ballads: The Lost Sessions