ゲッツはこの頃のボサノヴァの大ヒットにより自分のジャズのアイデンティティが埋もれてしまうのを恐れていたそうで、改めてストレートなジャズをやろうとしていました。このアルバムが録音されたとき、まだ「Getz/Gilberto」は発表されていなかったのに、もうゲッツはボサノヴァの代名詞的に捉えられていたようです。
このアルバムはかなりの名盤なのになぜかお蔵入りだったもの。ライナーにはもっともらしい理由が書かれているけど、信じられない。伝記には「なぜか忘れられていた」とある。
ゲッツがカナダツアーに出るにあたりピアニストが見つからなかったところ、ルー・レヴィがゲイリー・バートンを推薦しました。最初はしっくりこなかったもののツアーで仕上がってゲッツも気に入り、帰国してすぐに録音したそうなんだけどお蔵入りとは。
とにかくゲッツの音色がいい。スタジオ録音はそれがいい。そしてバートンによるバッキングはピアノ入りと違って独特の幻想的な世界を作っている。繰り返しになるけど、このアルバムはかなりの名盤。「バートンとのカルテットは変則的で好きになれないんだよなあ」と思っている人はぜひ聴いてもらいたい。
冒頭、憂鬱になりそうな「Summertime」から始まるのがまた意外でかっこいい。「Here's That Rainy Day」は「Getz Au Go Go」のライブとは違って倍テンにはならない。
ゲイリー・バートン作となっている「Out Of Focus」は「The Knight Rides Again」です。はは、この曲タイトルがいくつあるんだろう。ドラムソロになってもストレスがたまらない、なぜだろうと思っていたら、ドラムがロイ・ヘインズじゃないからでした。
ラスト「What Is This Things Called Love?」は久々に超アップテンポの演奏。これについていくバートンもすごい。
しかし、ここでのレパートリーはバートン時代でしか聴けないものが多い。その時期で主要レパートリーが変わるのはわかるけど、ゲッツはバンドメンバーが変わるとレパートリーを変えていたようです。バートン作曲じゃない曲もたくさんあるんだけどね。
ところで、表記ゆれについてここで言及しておきましょう。
バートン作曲の、このアルバムの2曲目、曲名は「6-Nix-Quix-Flix」。同曲が収録されている他のアルバムでの表記と並べてみます。
「6-Nix-Quix-Flix」(再掲。本アルバム)
「6-Nix-Pix-Flix」(「Stan Getz And Guests Live At Newport 1964」Pが違う)
「Six,Nix,Quix-Flix」(「Live In London」ハイフンでなくカンマが出てくる)
「6-Nix-Quix-Flix」(「Getz Au Go Go」これは同じ)
「6-Nix-Pix-Clix」(「Getz Au Go Go」の日本盤。PとCが違う)
普通に考えると本アルバムでの表記が正しいのでしょう。