スタン・ゲッツを聴く

スタン・ゲッツ ファンが勝手なことをいっているブログです。

Poetry /Stan Getz & Albert Dailey

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1983年、ゲッツとアルバート・デイリーのデュオ。デイリーと言えば1970年代中盤くらいまでゲッツのレギュラーカルテットのメンバーだったわけで、なぜいまになってデイリーが、と思いますよね。このアルバム録音の頃のメンバー、ジム・マクニーリーが他のバンドのツアーで一時的に抜けたために臨時にバンドに参加していたそうで、それでこのアルバム制作につながったみたい。

内容はといえぱ、後年の「People Time」みたいなものを期待すると裏切られる。それはデイリーのピアノが拙いからだけではない。

選曲は「Confirmation」「Tune Up」「A night In Tunisia」など、デュオでは避けるべき曲が並んでいる。「Confirmation」はソロの入り方はかっこいいものの細かく詰め込むようなフレーズはあまり参考にならないし、調子がいいとも思えない。「A night In Tunisia」もテーマのプレイはなめらかで素晴らしいのだけどヴァンプがいただけない。この曲はよく考えてみると「West Coast Jazz」収録のスタジオ盤以外さほど出来が良くなく、海賊盤録音ではいい演奏を聴いたことがないような気がします。

ゲッツの味わい深い音色が堪能できる「A Child Is Born」はいい、この曲の美しさを引き出している。また、昔から好んで演奏していた「Spring Can Really Hang You Up The Most」も、このフォーマットには合っているかもしれない。というか、ピアノとのデュオならバラードとは言わなくてもアップテンポのバップ曲はあまり合わない。当然、たまにそういうのがあればそれはいいんだけど。

それにしても「Lover Man」「'Round Midnight」と、デイリーによるソロトラックが2曲あって、なんだか損した気分。不思議なアルバムなんですよね。このソロナンバー、「Lover Man」はゲッツが70年代にデイリーとレギュラーバンドを組んでいたときの愛奏曲だったけどピアノソロピースではなかった。「'Round Midnight」も50年代の愛奏曲で、やはり自身が吹いていた曲なのになぜ今回はデイリーのソロなのか。「Spring Can Really Hang You Up The Most」は名曲名演なんだけど、60年代前半のレパートリーでデイリーとも無縁、なぜ今頃?選曲からしてどうなってるの、と思ってプロデューサー名を見たら、なんとゲッツ本人でした。スポーツの監督と同じ、名プレイヤーが名監督・名プロデューサーとは限らない。トータルでは及第点を付けるものの、厳しいことをいえば名選手に監督をさせる日本野球界のような失敗例アルバムかもしれない。

ところで、私はこのブログの多くの記事でデイリーを「ダメだ」「下手だ」と言っていますが、いい演奏もあるんですよ。でも、どうしても彼による多くの録音が残っている「La Fiesta」「Times Lie」というチック・コリアのナンバーがどれもこれもまったくダメで、曲を理解していないと思って、それだけで全否定するようなことを言ってしまっています。繰り返します、いい演奏もあります。どれが?と言われるとすぐには出てきませんが。

 

2024年追記。

このアルバム、ゲッツの演奏も手癖のような16分音符フレーズを多用していて、あまりメロディアスでもないしなあと思っていたのですが、久しぶりに大音量で聴いたら、いやいや、このアルバムいいですね。ゲッツは。もともといい演奏もあると思っていましたが、ちょっとだけ低評価していた曲も良いことががわかりました。とはいえ、ゲッツ不参加の「Lover Man」「'Round Midnight」はあいかわらず聴いていません。「Lover Man」の冒頭が「Parker's Mood」の引用なのはいいアイデアだと、そこだけ褒めておきますが、最初のテーマが終わる前にもう嫌になって飛ばしてしまう。

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