スタン・ゲッツを聴く

スタン・ゲッツ ファンが勝手なことをいっているブログです。

Billy Highstreet Samba

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ゲッツのソプラノサックスが聴けるアルバムとして有名だね。アルバムタイトルにあるビリー・ハイストリートというのは、ツアーマネージャーのオランダ人ビリー・ホーフストラーテンのこと。詳しくは評伝に書かれているけど、ゲッツが晩年非常に信頼を寄せていた人物です。

このアルバムも超名盤なのに、著作権の関係で約10年お蔵入りしていた。アメリカ人の権利意識は尊敬すべきところもあるけど過度だなと思うときもある。ファンにしてみれば、とにかく発表してくれ!と思いますよね。

81年録音でメンバーも一新していることもあり、70年代的フュージョンではなく確かに80年代のフュージョンとして仕上がっている。メンバーはチャック・ローブにミッチェル・フォアマン、そしてマーク・イーガン。アンディ・ラヴァーンが脱退してくれて本当に良かった。出来損ないのフュージョンもどきをずっと聴かされてきたから。「The Dolphin」以降なのに「またフュージョンか」という人もいるけど、そんなの関係なくいいアルバムだと思うな。80年代、この後も何枚もフュージョン作品を発表しているから、純ジャズにこだわっていてもしょうがない。純ジャズにこだわるようなら、ゲッツマニアとしては三流。

1曲目「Hospitality Creek」はソロスペースが基本的に本人のみの「ソロ」状態で、ギターやピアノは自らコードを提示してソロイストがそれぞれ自分で好きなようにソロをとるんだけど、ゲッツはブルースとして演奏している。最初1コードによる(?)フレーズを吹いているんだけど、途中でブルースになった瞬間、ゾクっとする。マーク・イーガンのベースは常にフュージョンらしくてGood。

「Be there then」「The Dirge」の2曲で吹いているソプラノサックスは柔らかくフュージョンタッチの曲想にはマッチしているけど、やっぱりゲッツらしさはテナーでないとよくわからないかもしれない。でも、リズムセクションとの相性はバッチリで、このままゲッツがスムーズ路線(この頃にはまだなかった概念)に行ったら、それはそれでおもしろかったかもしれないし、何より1つの流派を築いたかも。というか、ゲッツがスムーズ路線というものを創始することになったかも。特に「Be there then」でのイントロからテーマに移ったところの、美しさ・切なさは誰にも真似できない。涙が出そうになるくらい。ちなみに、ソプラノサックスはテーマのみで、曲中のソロはテナーサックスで演奏しています。ジェイ・ベッケンスタインなどのように常にマルチで演奏する人は別だけど、ゲッツはプロとして自分のソプラノはまだダメだと判断したのでしょうね、プレイについては妥協しない性格であることは、いろんな人の証言でもわかります。

 

ところで、70年代の「Lush life」のように、なぜかこのフュージョンアルバムに「Body & Soul」が入っている。おそらく、いつものように選曲をすべて若手やスタッフに任せて、「あ、でもオレのやりたい曲、1つくらいやらせてよ。じゃあ、これ」みたいな感じでスタンダードを入れたんだろうな。すべて想像ですけど、過去の選曲を見ると、おおかたそうなんだろうなと思わざるを得ない。「Lush Life」から始まり、1970年代の「LoverMan」「Willow Weep For Me」なんかそう思うでしょ。

で、「Body & Soul」ですが、わるくないです、レコードでは最後に位置してして、それまでのエキサイティングな演奏を締めるかのような、クールダウンというか穏やかな感じになっている。絶妙。スムースジャズのような、都会的なジャズになっている。でも「Stan Getz plays」での超名演にはかなわないな。

 

CD追加の「Tuesday Next」はドラムとパーカッションのソロが延々と続く曲。落とされるべくして落とされた曲。ヴィクター・ルイスのドラムソロって、個性的でけっこうおもしろいけど、ここではパーカッションとの掛け合いであまりその個性を発揮できていない。

 

Billy Highstreet Samba

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