聴くまでは、「どうせ90年代のジャズボーカル、ヒップホップとかなんでしょ」と思っていたのに、全然そんなことなかった。ムーディな曲中心の、極上のジャズボーカルアルバム。アビー・リンカーンの歌い方は嫌いだけどいいアルバム。ゲッツの歌伴としては、いい意味で最もジャズボーカルらしい、ムードのある作品ではないだろうか。この評価にはハンク・ジョーンズのピアノもかなり寄与していると思う。ゲッツの初リーダーアルバムのピアニストはハンク・ジョーンズだったそうです。サヴォイのセッションで、確かにハンク・ジョーンズと、ついでにマックス・ローチが参加してるものがありますね。それより古いセッションも収録されてるけど。
ゲッツのスタジオ録音としては最後のもので、とにかく全編フィーチャーされているゲッツのプレイが感涙もの。ハンク・ジョーンズのピアノも同様、これぞジャズのピアノの伴奏。ベースは大嫌いなチャーリー・ヘイデン。大物だということで普通ならヘイデンにもソロをたくさんとらせてムードぶち壊しの典型的ダメジャズボーカルになってもおかしくないのに、そうはしないでとにかくリラックスして楽しめるようになっているのがいい。パーソネルを見たときにジャマだなと思っていた、アビーの娘マキシンのヴィオラも効果的。期待してなかったからかもしれないけど、このアルバムはかなり高評価です。
収録曲のうちアビーは4曲を作曲、これがまたいい。彼女は曲作りがうまい。うち1曲は曲じゃないけど。3曲目と5曲目は初期のトム・ウェイツそのまんま。つまり雰囲気重視という褒め言葉です。ムードがある。例えばアニタ・オデイのアルバムは、アニタによるものではないけど凝りすぎてまったくムードがないものが多い、ああいうボーカルアルバムではないですよ。
タイトル曲でもある「You Gotta Pay The Band」は、スタンダード「Just A Gigolo」のような前奏で始まる、アフターアワーズ的な名曲。まさにトム・ウェイツ的。これはたまらない。ちなみに「You Made Me Funny」もトム・ウェイツ風だけど、まんま「Small Change」というと、わかる人は「ああそれじゃその曲は聴かなくていいか」と思いますよね。
意外なのは、当時61歳のアビーがこのアルバムを「私にとって初めてヒットしたアルバム」と言っていること。「ゲッツのおかげ」とも言っている。アビーのキャリアはわからないけど、かなり長いのに、初めてのヒットなの?そうか、マックス・ローチと「We Insist!」とか吹き込んでいたからキワモノ扱いされてたのかな?
ユ?・ガッタ・ペイ・ザ・バンド(You Gotta Pay the Band) (MEG-CD)
- アーティスト: Abbey Lincoln FEATURING Stan Getz(アビー・リンカーンフィーチャリングスタン・ゲッツ)
- 出版社/メーカー: 株式会社ミュージックグリッド
- 発売日: 2013/09/11
- メディア: CD
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