スタン・ゲッツを聴く

スタン・ゲッツ ファンが勝手なことをいっているブログです。

The Dolphin

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私が好きなゲッツのアルバムではベスト3に入ります。

「ゲッツがそれまでのヒット狙いをやめて、原点回帰したアルバム」といわれていて、実際そのとおりだと思う(このあともポップなフュージョンを数枚録音しているけど)。

1曲目の「The Dolphin」の美しさといったら、言葉にできない。「ピアニストがルー・レヴィでなければもっと良かった」といった人もいたけどね。このテイクのほかに、ウディ・ハーマン楽団との演奏や映像作品でも「The Dolphin」を演奏しているけど、やっぱりこれが最高。作曲者ルイス・エサのバージョンは1か所コードが違っていて、こっちのゲッツの方がよりかっこいい曲に仕上がっている。たった1つのコードの有無で、かっこよさが大きく変わる。

2曲目「A Time For Love」もゲッツにしかできない美しさが現れている。この曲、低くすると無粋になるし高くすると情緒がなくなるし、ゲッツじゃないとこのキーでは演奏できない。ゲッツの後年のバラード演奏は、最後にテーマに戻らずにピアノソロがそのままリタルダントして終わるという形式が基本だけど、ここでもそのパターンが聴けます。バラード演奏の形式として、これは参考にすべきものだと思いますね。

それから、このアルバムでしか聴けない「Joy Spring」。クリフォード・ブラウンの名曲ですね。2番目のAメロで半音上がるのがちょっと難しいのだけど、当然ゲッツは難なくプレイ。作曲者クリフォードの演奏よりも名演でしょう。60年代にまったくダメなプレイをしていたベースのモンティ・バドウィックも、ここでは割りとよいベースソロを聴かせる。おお、うまくなったもんだ、と偉そうな感想。

ジョン・コルトレーンの演奏で有名な「The Night Has A Thousand Eyes」は、コルトレーンのようなアフロでなく全編スイング。まずはピアノソロから入り、ゲッツのソロは少しずつ手探りで入っていく。徐々に熱を帯びていくソロ構成がすごい。派手ではないものの名人芸的に多彩さを見せるヴィクター・ルイスのドラムも素晴らしい。ちなみにゲッツはこの曲をストリングス入りでも録音しています。

最後の曲「Close Enough For Love」、日本人好みの曲で、おそらく人気は高いのでしょう。静かに始まりだんだんとエモーショナルになっていく展開もグッド。でもそれまでの5曲に比べればどうでもいい、なんだか受け狙いという感じ。そういえるほど5曲目までが素晴らしいのです。いえ、この曲も良いんですけどね。

 

ザ・ドルフィン

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