「ニューヨークのため息」でしたっけ、ヘレン・メリルとの最初で最後の共演盤(このときの未発表テイクが別のアルバム「Blossom Of Stars」で発表されますが)。メリルのたってのオファーで実現し、欧州でほんの少しのゲッツの空き時間を使い、メンバーを揃えてレコーディングされました。
1曲目は、あの名曲「Cavatina」。日本人にとってはクラシックギターの村治佳織の演奏でおなじみでしょうか(違います?)。イントロのあとゲッツによるメロディが聴こえ、感動しているとヘレン・メリルの歌が入ってきて思い出します。「ああ、そういえば自分はヘレン・メリルの声も歌い方も嫌いだったんだ」
そうなんですよ、1950年代の録音からずっと、メリルの歌い方がどうも好きになれません。
主役であるはずのメリルはわきに置いて、ゲッツは1980年代以降に見られる輝きを持ったプレイで、まったく文句なし。2曲ほどゲッツ不参加曲があるのでそれは飛ばして聴きましょう。
急遽決まったということとヴォーカルのアルバムということもあり、選曲はスタンダード中心。何を演奏してもゲッツは素晴らしいですが、80年代以降はスタンダードに独自の美しさを加えるという偉業を遂げてきているので、「It Never Entered My Mind」や「Just Friends」などを取り上げてくれるのは非常にいいですね。1980年代以降の定番曲「Yesterdays」もグッド。「It Never Entered My Mind」は「Mad About The Boy /Cybill Shepherd」でも歌伴で演奏しているので聴き比べるのもいいかも。「If You Go Away」については「あれ?このメロディどこかで聴いたことあるぞ」という人も多いはず。詳しくは「Blossom Of Stars」をご確認ください。
ラストの「Music Maker」はバックのメンバーの名前を歌詞に織り込んで歌うスインギーな曲。ここでのゲッツもお決まりの攻め方で「きたきた!」と楽しめます。
ちなみに、このアルバムのオファーがあったおかげでゲッツが所有していた「Anniversary」と「Serenity」の音源をポリグラムに譲渡できて、その結果あの最高傑作の1つ(2つ)が世に出ることになったのでした。
- アーティスト: ヘレン・メリル,スタン・ゲッツ,ヨアヒム・キューン,トリー・ジトー,ジャン=フランソワ・ジェニー=クラーク,ダニエル・ユメール,ジェニー・クラーク
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2012/03/21
- メディア: CD
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