スタン・ゲッツを聴く

スタン・ゲッツ ファンが勝手なことをいっているブログです。

Serenity

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まったく期待せずに買ってみたら、とんでもなく気にいってしまったアルバム。ゲッツが保有していた音源の一部を「Anniversary」として発表し、その残りをこのアルバムで発表しました。ヘレン・メリルとの共演アルバム「Just Friends」を作る際にゲッツが付けた条件がこの音源の買取りだったのですが、世に出て本当に良かった。エマーシーでの録音ではケニー・バロンのピアノが輝いて聴こえるのが特徴で、それがまた良いです。

1曲目の「On Green Dolphin Street」、イントロと混ざった冒頭のテーマメロディの崩し方が絶妙。生涯何度も演奏している曲ですが、このテイクがベストでしょう。エンディングではマイケル・ブレッカーみたいなオルタネイト・フィンガリングも聴けて、ゲッツが研究熱心だったことがわかります。そして晩年の愛奏曲「Voyage」も、多くの録音が残る中、ここでのテイクがベストかと。

しかしやっぱりこのアルバムの白眉は3曲目「Falling In Love」。ヴィクター・フェルドマンのコードが複雑な名バラード。切々と歌い上げるプレイはゲッツ生涯の名演。最低音域を「ボフッ!」と爆発的に鳴らすのは80年代以降ゲッツがよくやっていたけど、それとサブトーンが混じり合って美しすぎるバラード演奏が展開される。アルバム「Voyage」収録のスタジオ録音のものよりはるかに良いです。

 続く「I Remember You」は、ここでの演奏しか残っていないのではないか?思いつかないですね。で、ラストの「I Love You」、畳みかけるようなフレーズが非常にスイングして心地よい。エンディングはフラジオを使ったちょっとフリーみたいなフレーズがあり、冷静に聴いてみるとゲッツらしくない、いや、なんだかんだ言ってもテナーサックスの第一人者、やっぱり研究熱心だったんだなあと思います。

もしこれをライブ録音の残りテイクの寄せ集めと考えている人がいたら、だまされたと思ってぜひ聴いてみてください。そんなことはない、ジャズ史上に残る名盤です。

Serenity

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