スタン・ゲッツを聴く

スタン・ゲッツ ファンが勝手なことをいっているブログです。

People Time: The Complete Recording

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この7枚組のアルバムが発表されたときは歓喜しました。これを「いかにも末期がん患者のダメライブ」と評したひとがいたけど、残念。人類の永遠の財産だと思います。ライブは1991年3月3日から6日までで、それぞれ2セット(6日は1セット)。 当初発表された2枚組にはほぼ3月5日の2セット目から4曲取り上げられ、その日は調子が良かった。ただし体調はすぐれず、最終日のライブをキャンセルしようと考えていたそう。

確かに当初発表された2枚組よりは出来がわるいことは否めない。特に「Night And Day」が顕著だと思った。でも90年代の1音1音に魂を込めるゲッツの演奏はどれだけあっても足りない。もっともっと発表・発掘されてほしい。ジャズファンの世界では、ベスト・フェイバリットをよく「無人島の1枚」などと言いますが、ボックスを1タイトルとして許されるなら私はこれを選びます。でもボックスを認めてしまうと「マイルス・デイヴィスCBSコンプリートボックス(CD71枚組)」というのもありになるから、ダメですね。

当初発表盤にあった「Gone With The Wind」はいかにも疲れていてライブの終わりの方、ケニー・バロンに頼んで自分のソロを後回しにしてもらったのはこれなのかな、と思っていたんだけど、このコンプリートを聴いてそのとおりだったことがわかりました。

当初発表盤にはないいろんな曲をやっているんだけど、なんと「Autumn Leaves」もやっているんですよ。50年代のルースト同様Cマイナーでやっているので、頑固というかなんなのか、とにかくかっこいいフレーズが出てきますけどそのままコピーしても普通はGマイナーで演奏されると思うのでセッションでは使えません。

さらに、過去の録音からは見つけられず(多分)このコンプリートボックスでしか演奏していない曲を挙げると、

「Allison's Walz」

「You Don't Know What Love Is」

「I Wish Your Love」

「The End Of Love Affair」

「Bouncing With Bud」

などがあります。

ピアノとのデュオで「Bouncing With Bud」や「Con Alma」を取り上げるのが強引だなと思いますが、アルバート・デイリーとのデュオ「Poetry」では「Confirmation」とか「Tune Up」「A Night In Tunisia」など、さらにふさわしくない曲をやっていましたね。

とにかくどれもこれもすばらしい演奏です。これを聴いて思ったのですが、私がプロデューサーだったら当初発表された2枚組された14曲のうち「First Song」と「Soul Eyes」を抜いて「The End Of Love Affair」と「You Stepped Out Of Dream」を入れてましたね。

さて、冒頭記したとおりここには4日間7セットの演奏が収録されているのですが、それぞれのセットのレパートリーを見ているとおもしろい。同じような曲を繰り返しながら「ちょっと気分を変えてみようか」と、ガラッと変わっているときもあります。参考までに以下に記載しましょう。

3月3日1st Set

1. I'm Okay
2. Gone With The Wind
3. First Song
4. Allison's Waltz
5. Stablemates

3月3日2nd Set

1. Autumn Leaves
2. Yours And Mine
3. (There Is) No Greater Love
4. People Time
5. The Surrey With A Fringe On The Top
6. Soul Eyes

3月4日1st Set

1. You Don't Know What Love Is
2. You Stepped Out Of A Dream
3. Soul Eyes
4. I Wish You Love
5. I'm Okay
6. Night And Day

3月4日2nd Set

1. East Of The Sun
2. Con Alma
3. People Time
4. Stablemates
5. I Remember Clifford
6. Like Someone In Love
7. First Song
8. The Surrey With A Fringe On The Top
9. Yours And Mine

3月5日1st Set

1. The End Of A Love Affair
2. Whisper Not
3. You Stepped Out Of A Dream
4. I Remember Clifford
5. I Wish You Love
6. Bouncing With Bud
7. Soul Eyes
8. The Surrey With A Fringe On The Top

3月5日2nd Set

1. East Of Sun
2. Night And Day
3. First Song
4. Like Someone In Love
5. Stablemates
6. People Time

3月6日

1. Sofltly As In A Morning Sunrise
2. I Wish I Love
3. Hush-A-Bye
4. I'm Okay
5. Con Alma
6. Gone With the wind
7. The Surrey With A Fringe On The Top

3月5日にガラッと変えているのがわかります。

そうそう、大事なことを忘れていた。ジャズ批評No.119の森泰人氏のインタビューで「ゲッツがホテルでマイナー系の美しいフレーズを練習していた」という記載がありました。何を吹いていたのかわかりませんが、このコンプリート盤のディスク3(3月4日1st Set)の冒頭、ゲッツがA音でチューニングをしているだけの1分未満のトラックが入ってるんだけど、これがチューニングだけでなんとなくもの悲しい、音色の力がよくわかります。

People Time: The Complete Recording

People Time: The Complete Recording

 

Nothing But The Blues / Herb Ellis

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タイトルのとおりブルース漬けのアルバム。ロイ・エルドリッジは古くさいスタイルでエリスのブルースに合うんだけど、ゲッツはどうなんだろう。1曲目のバックリフ、ゲッツとは思えないプレイで「あんた、誰?」と思ってしまう。オーソドックスなジャズなのにある意味トンデモゲッツにノミネートされるかもしれない。

と思いきや、2曲目以降は、ゲッツは普通。エルドリッジと合わないことは変わらないけど。

不思議なのは、ずっとブルースで来るから「Soft winds」もブルースでやるのかなあと思っていたらしっかり16小節で演奏していること。もともと16小節の曲だけど、ジャズメッセンジャーズはブルースにアレンジしているから当然そっちで演奏すると思っていたのにね。

ちなみに「Les Tricheurs」という1曲追加になっているバージョンのCDもある。映画「危険な関係」のサントラからの曲でシングル盤としても発売されたみたい。録音年月日も違うしエルドリッジに代わってディジー・ガレスピー、そしてコールマン・ホーキンスが参加している。なぜこれがボーナス・トラックになるのかと思いますが、どこかに追加収録してくれないと入手困難テイクになってしまいますからね、歓迎すべきこと。同じく映画サントラでシングル盤にもなった「Theme From Dr.Kildare」も、録音時期が近くて同じオーケストラものだということで「Big Band BossaNova」にボーナス・トラックとして追加収録されたから簡単に入手できるようになったんです。まったくボサノヴァじゃないけど。

ま、オリジナルアルバムにこだわりたいときもあるけど、やはりボーナス・トラックが嬉しいときもあります。

 

Nothing But The Blues

Nothing But The Blues

 

Carryin On /Michele Hendricks

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「Old Devil Moon」と「Prelude To A Kiss」の2曲にゲッツが参加している。それがどちらも素晴らしい。「Old Devil Moon」はイントロ含め曲の最初からどんどん歌にからみ、ソロではストックフレーズを交えながら盛り上げる。よくラテン風で演奏されるけど、ここではミディアムテンポでスイングで。けっこうそれがかっこいいし、ヴォーカルもマッチしていて、いい歌伴トラックになっている。

もう1つ、エリントンの「Prelude To A Kiss」は静かな曲想を包み込むような演奏が印象的。

それにしてもこの人、ジョン・ヘンドリックスの娘さんということなんだけど、ジョン・ヘンドリックス自体よく知らないんですよ。レーベルもマイナーみたいだし、よくゲッツを呼べたなあと思う。87年はゲッツがどんな仕事でも引き受けていた頃だからわからないこともないんだけど。

後日談。ジョン・ヘンドリックスを調べてみたら、けっこう偉大なジャズヴォーカリストらしいです。ヴォーカルはあまり詳しくなくて失礼しました。

さらに追記。なんと、このミシェル・ヘンドリックスとジョン・ヘンドリックス1975年にゲッツと共演していました!わかりますか?「The Peacocks」の「The Chess players」です。あれです。あのコーラス隊。

Carryin on

Carryin on