スタン・ゲッツを聴く

スタン・ゲッツ ファンが勝手なことをいっているブログです。

Live From 1952 To 1955

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ブート音源を集めたアルバムで、フェイドアウトのテイクもたくさん。冒頭4曲はチェット・ベイカーとの「L.A. Get-together!」にも収録されているけど、パーソネル表記がまったく違う。どっちが正しいかは不明。

 

ゲッツ自身はもっとも好調な時期と言えるだろうか、力むことなく難しい曲でもたやすそうに演奏している。そういうところはゲッツの魅力の1つだろう。10曲目までは「Stan Getz plays」の録音時期を挟んで前後3か月頃の録音だしね。ケニー・クラークバディ・リッチとの共演も入っている。

 

最後にトニー・フルセラとのクインテット録音が入っているのはマニア垂涎かもしれないけど、フルセラってそんなにいいかなあ?いわゆる伝説的なトランぺッターだから、希少価値だけで高評価を得ている気がしないでもない。

 

それにしても、ジャズ批評にも書いてあったけど、このジャケット何のつもりなのでしょうね。

 

The Brothers

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アルバムの前半7曲がゲッツ参加のテイク。ただし別テイクが3つあるので、実質的には4曲。

テナー奏者が、ゲッツのほかブリュー・ムーア、ズート・シムズ、アレン・イーガー、アル・コーンと、全部で5人もいる。これは何がなんだかわからないだろうという心配が予想されたのか、オリジナルアルバムのライナーにはソロオーダーが記載されていてちょっと安心。

ウディ・ハーマン楽団のフォーブラザーズは、ゲッツ、ズート、コーンとハービー・スチュアートだった。ここでは上記の5人で、一応クレジットは「ゲッツとヒズ・フォーブラザーズ」となっている。

 

SP時代で1曲が短いうえにソロイストがピアノも含めて6人いるので、ゲッツのソロも基本的には半コーラスか1コーラス。49年の録音だから、コーンも後年の特徴がなく、ズートはゲッツに似ている。ところがこうして同じ曲で聴き比べると確かに違う。というよりやはりゲッツが光っている、と考えるのはファンの贔屓目かな。

 

Brothers

Brothers

 

Spring Is Here

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The Dolphin」と同時期のライブで、姉妹作と言えます。「The Dolphin」はリアルタイムで発表されたけど、こっちはゲッツの死後の発表作。演奏内容は当然良すぎるんだけど、選曲がバラード中心になっているのはいかにもアウトテイク寄せ集めアルバムか。それぞれの曲はどれも素晴らしいんですけどね。でも、ゲッツの80年代の幕開けであり、「The Dolphin」とセットでのマストアイテムです。美しさは半端ない。

とにかく、冒頭「How About You」が良い。ソロに入ってペダルで進むところとか、普通ならすぐに4つ刻み始めるところをベースが2ビートの刻みで続けるところとか、さすがベテランのモンティ・バドウィック。ビル・エヴァンスとの「Empathy」を聴いたときは全然ピンと来なかったけど。それと1番最初のコードを少し変えているのが効果的。それと、いつも職人技が光るヴィクター・ルイスも好演。技術はあるのに技術を要しないプレイをすることが多く、その叩き方はゲッツのサポートに最も適したドラマーかとも思います。テーマに戻る直前のハイハットなんか最高です。

2曲目「You're Blase」は50年代に何度か吹き込んでいるバラード。1音引っ掛けて、ためて入るのがカッコいい。この、引っ掛けのあとのタメの瞬間がたまらない。エンディングのコード進行がまたゲッツらしくカッコいい。バラードの名手は何人かいますが、ゲッツも明らかにトップクラス。

ただ、このあとまだ5曲あるんだけどスロー曲やミディアムスロー曲が4曲なんです。「Easy Living」「Sweet Lorraine」1曲挟んで「I'm Old Fashioned」「Spring Is Here」。だからアルバム全体通して聴くと印象が薄くなるのかもしれないね。どれもこれも名演なのに惜しい。「The Dolphin」とセットで見ると13曲中8曲がスローまたはミディアムスローというのもけっこう意外。

ちなみに1952年の「Stan Getz Plays」は11曲中6曲がバラードで、CDでは4曲連続、レコードでも3曲連続でスローが来るのに、まったく飽きないのはなぜなのかな。

スローでない「Old Devil Moon」は、とにかくかっこいい。ラテンリズムのまま結構ゲッツのソロが続いて、ようやくスイングになるところ、ここでのゲッツの切り替え再スタートのようなクロマチックのフレーズがまた良い。気にしてないとどうでもいいフレーズなんだけど、実はセンスの塊。私も真似して吹いています。これも、ソロに入ったからといってすぐにはリズムパターンを変えず、ゲッツのソロがもう少し続いてから変えるという、「How About You」のような工夫があり、それがとにかくベテラン揃いの名人芸を感じさせる。

 それから「I'm Old Fashioned」がいいですね。ジャズファンにとってはジョン・コルトレーンによる演奏が有名かも。「私は時代遅れ」という甘い歌詞の曲で、決してドーナツの歌ではありません。非常に美しい旋律を持ったスタンダードですが、「Quintessence, Vol. 1」でチェット・ベイカーの歌伴、「Mad About The Boy」ではシビル・シェパードの歌伴で録音しています。この歌伴2つもかなりいいので、ぜひ聴いてもらいたい。

Spring Is Here

Spring Is Here