スタン・ゲッツを聴く

スタン・ゲッツ ファンが勝手なことをいっているブログです。

Newport In New York '72

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いろんなジャケットがあるようですが、私の持っているバージョンは下のこれです。

 

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72年のニューポートジャズフェスティバルの録音で、CD3枚組。もとはLP5枚だったのかな(6枚?)。とにかくすごいメンバー。ゲッツのほか、ディジー・ガレスピークラーク・テリー、ハリー・エディソン、ソニー・スティットジェリー・マリガンデクスター・ゴードンズート・シムズローランド・カークイリノイ・ジャケーミルト・ジャクソンハービー・ハンコック、ジャキ・バイアード、ジミー・スミス、チャールス・ミンガス、アート・ブレイキーマックス・ローチエルビン・ジョーンズ、トニー・ウイリアムス、ゲイリー・バートンナット・アダレイケニー・バレルB.B.キングなどなど。当然全員が一堂に会して共演しているわけではないけど。ヤンキースタジアムでの演奏もあり、この頃はそんなに人が集まったんだなあと驚きます。ちなみにこのアルバムの最大の聴きどころはやはりローランド・カークの「Impressions」です。伝説のモントルーと同じ1972年ですし。カークは、総合的に判断するとジャズ史上最も「上手い」テナー奏者だと思いますね。

ゲッツは「Bags' Groove」と「A Night In Tunisia」に参加。でも「Bags' Groove」がどうも淡々とした演奏に聴こえるのは私だけでしょうか。ゲッツの音色でフレーズもばっちりで、後半少しワイルドになって、文句なしと言えばそうなんですけど、テンポがどっちつがずで、リズムセクションがちょっとおとなしいのかな。いえ、ローチの手数は多いのですけど、これもまたなんとなくそういう印象。ミルト・ジャクソンもなんだか「らしくない」プレイに聴こえます。余裕がありすぎるのかもしれない。しかしジョン・ブレアなるヴァイオリニストが、ほとんどマハヴィシュヌ・オーケストラのジェリー・グッドマンばりの演奏をして、聴衆を沸かせます。

(2024年3月追記。久しぶりに聴いたらゲッツの演奏は流麗だしまったく問題ないどころか名演だな~と思いました。)

「A Night In Tunisia」でのゲッツは、「West Coast Jazz」とは違うアプローチだなと思っていたら、その「West Coast Jazz」収録のテイクと同じフレーズを8小節も吹いて、その後は攻め手を欠いたようなフレーズに終始してしまう。とはいえ絶対的に劣っているというわけではなく、個人的には好きな演奏です。

ゲッツ参加は2曲だけですが、ほかの収録曲もかなりおもしろく、例えばオルガンのジミー・スミスゲイリー・バートンの共演にドラムはアート・ブレイキーとか、ローランド・カークハービー・ハンコックの共演とかもあったりして、このアルバムは買って損はありません。

The Golden Years, Vol. 1 1952-1958

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このCD、ほとんどラジオ音源で、音質もわるい。アナウンスもたっぷり入っている。だからこそ、秋の夜長なんかに小さい音量で流しているといいムードになるかもしれない。

全部で8つのセッションから構成されていて、けっこうたくさんモーズ・アリソンがピアノを弾いている。

1曲目のデューク・エリントン楽団との共演「 I Got It Bad And That Ain't Good」は、ジョニー・ホッジスによる演奏とは全然違い、すごく新鮮な感じ。

他にもわりと珍しい共演が収録されていて、バディ・リッチや、「Broadway」ではアート・ブレイキーがドラムを叩いている。エンディングにおけるドラミングはほとんど「バードランドの夜」状態でおもしろい。 

「Jordu」でのドラマーはポール・モチアン。ここでは珍しくゲッツのダメなプレイが聴ける。4小節単位でフレーズが切れてしまい、素人みたいな(いえ、うまいんですけど)構成になっている。

 ラストの「Fontessa」は、ドナルド・バードとの共演。ジャズ批評には「タイトルわからないけどFontessaではない」という記載がある。いや、そうは言いきれないでしょ。確かにMJQの同名曲とは違うけど、これも同じタイトルかもしれない。

ちなみにジャズ批評では担当ライターが「あのモーズ・アリソン」とか言ってやたらとアリソンを持ち上げているけど、別にそんなに優れたプレイヤーではないと思います。

 

ちなみにこのCDは「Vol.1」ということで、「Vol.2」もありますが、そちらに収録されている音源は他のCDでも聴くことができます。

The Best Of Two Worlds

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60年代の共演盤よりパッとしない印象があるかもしれないけど、ポップスとしての完成度はこちらも負けていない。変にストイックなものを求める必要はない。ボサノヴァのスタンダード曲は収録されていないけど、名盤だ。なんとこれがゲッツのコロンビア移籍後第1弾。コロンビアの経営層は、「ゲッツはストレートアヘッドなジャズよりポップス系」と考えていた。まったく意味がないというかわからないけど、参加メンバーにはオスカル・カストロ・ネヴィス、アルバート・デイリー、スティーブ・スワロウ、ビリー・ハート、グラディ・テイト、ルーベンス・バッシーニ、アイアート・モレイラの名前もある。

 

1曲目、いきなり英語詞でエロイーザ・ブアルキ(シコ・ブアルキの姉です)のみの歌、ジョアン・ジルベルト不参加。いい意味で強固な意志を感じる。実はこのアルバム、ゲッツ自身によるプロデュースらしい。ホントかな。評伝には「ジルベルトとの共演をさせられて、ゲッツはコロンビアに不満を持っていた」なんて書いてある。自身のプロデュースなら不満云々はウソ、言い訳ということになる。私は、ゲッツの意思で作ったアルバムだと思う。ジョアンとの共演には何か秘めた意図があったのか、再びの大ヒットを狙ったのか。いずれにしても積極的に音楽を作っているということが伝わってくる。全編にわたり元気のいいソロを聴かせ、3曲目では自身のソロを二重録音。これは何の意図があったのかわからないけど・・・

「自分はボサノヴァを理解している」というアピール評論家や似非ボサノヴァファン、ボサノヴァ以外理解できない多様性音楽ファン初心者は「ゲッツの大仰なブロウがジョアンの音楽を台無しにしている」などと訳知り顔で評論しているアルバムだけど、何を言ってるのか。ゲッツが自分のアルバムを作った、そこにジョアンを参加させた、というものだ。ジョアンの音楽がどうのなんて評価をここに持ち込むのはナンセンスだし、ボサノヴァという物差しで測る必要なんてない。ゲッツのジャズという物差しで測ればいい。

 

選曲は当時のジョアンのレパートリー中心。完全に別々にスタジオ入りして多重録音で仕上げたんでしょうね、ジャケットと裏ジャケットを見ればそれが伝わってくる。まだジョアンは「自分だったら何をやっても称えられる」ということに気づいていないから、おかしな尺の伸び縮みをしていない(「Retrato em Branco e Preto」ではやっていて、聴いていて気持ちが悪い)。翌年のライブ盤ではすでにその兆候がある。

 

それにしても多重録音としてもゲッツの伴奏部分なんかよくやったなあとも思うけど、ギターのカストロ・ネヴィスも参加しているから切り貼りでカストロ・ネヴィスによるギターを付け加えた可能性はあるね。以前ヴィセンテ・アミーゴのライブで、ギタリストが入れ替わっても音だけ聴いてるとけっこう気づかないということを体感したことがあります。

ゲッツ・ジルベルト・アゲイン

ゲッツ・ジルベルト・アゲイン