スタン・ゲッツを聴く

スタン・ゲッツ ファンが勝手なことをいっているブログです。

Anniversary

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87年のライブ。ジャケットの写真はゲッツが最後に愛した女性、サマンサ・セセーニャ。このアルバムの収録にもれたのが後年「Serenity」として発表されるんだけど、どちらも文句ない内容。

こっちは1曲をのぞいてバラードとミディアムテンポ。どの演奏も神憑っていて、吸い込まれるよう。バラードの美しさなんか他の追随を許さない。唯一のアップテンポがラスト前の「What Is This Things Called Love?」で、アルバムのクライマックス。普通のスタンダードをこんなに盛り上げることができるのはさすが。どの曲もゲッツと、そしてケニー・バロンが光っている。

このアルバム、当初日本盤は「星影のステラ」という邦題で発売された。スタンダード至上主義の納得いかないマーケティングだなあと思っていたんだけど、実際に「Stella By Stalight」を聴いてみるとテンションという細い糸を綱渡りしたようなフレーズが星降る夜空の如くキラキラと輝き、「Stan Getz Plays」での奇跡とはまったく違うもう1つの奇跡が起こったことに気づきます。ほかの曲も抜群に良く、ゲッツはカフェ・モンマルトルと相性が良かったということに納得させられます。

真ん中に位置する「I Thought About You」はCD追加曲なんだそうだけど、あまりにもいい出来で、美の極地とも言えるバラード演奏。これだったら「Blood Count」をオリジナルレコードからはずしたほうが良かったんじゃないのかなと思う。

ところで「Blood Count」はビリー・ストレイホーンが最後に発表した曲だそうです。後年のゲッツはこの曲を気にいっていたようでいろんな録音が残っているけど、70年代にはストレイホーンの実質的デビュー曲「Lush Life」を何度も演奏していた。おもしろい因果を感じるというか何か秘めたストーリーがありそうな事実です。

このライブは映像作品も発表されているので、ぜひそちらもお薦めします。

 

Anniversary

Anniversary

 

 

Stan Getz - In Copenhagen 1987 [DVD] [Import]

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Ella Fitzgerald At The Opera House

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エラ・フィッツジェラルドはジャズ界最大のボーカリストだと思う。ほかにも大物はいるけど、エンターテインメント性や進取性を考えるとやはりエラに軍配があがる。

このオペラハウス録音は、バックにコールマン・ホーキンスレスター・ヤング、ロイ・エルドリッジやJ.J.ジョンソン、そしてゲッツなどを従えた豪華メンバー。はっきりいってかなりの名盤。

ところが、これがまたゲッツのソロはまったくない。というかベルリンライブのとき同様、エラの歌のみフィーチャーされている。それを可能にするスター性、納得できる人気、まったく飽きさせないすごいパフォーマンスだけど、「ゲッツ参加」ということで聴いてみるとガックリくるかもしれない。そういう期待を持たずに聴けば満足すること間違いなしですけど。

 

At The Opera House + 1

At The Opera House + 1

 

People Time

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なんだかんだいっても、私が一番好きなゲッツのアルバムがこれです。「ベースとドラムがいないなんてジャズじゃない」という評価も耳にしますけど。ラストレコーディングということに思いをはせると、聴くたびに涙が出てくる、そういうアルバムです。2枚組ですが、まったく長く感じません。いつまでも余韻浸りたい。

スタンダードが中心なので買うときはまったく期待していなかったのに、いざ聴いてみると、こんなにすばらしいジャズはないと思えるほどの美しさ。冒頭の「East Of The Sun」の最初のフレーズからノックアウトされます。そして「Night And Day」。50年代の録音とはまったく違うアプローチで、アッパーストラクチャーを連発したフレーズがすばらしい。それから「Gone With The Wind」でのソロ冒頭ストックフレーズ、これは昔からゲッツが吹いていたお決まりのフレーズなんだけど、このラストレコーディングが一番はまっています。この演奏のために今まで何十年も練習してきたんじゃないかと思えるほど。ちなみに「I Remember Criford」のカデンツァのメロディも50年代から吹いているストックです。

スローナンバー「First Song」が評価されているけど、ゲッツファンとしてはこの曲が一番つまらないといえるほど他の曲が良いのです。例えば同じスローでもしっとり聴かせて盛り上げる「I'm Okay」が絶品。後半、高音でゲッツのテナーが泣き、少し間があくところにピアノがすうっと入るのが切ない。「People Time」は多くの録音が残っているけど、ケニー・バロンのタイムの取り方に特徴がある、このアルバムでのテイクが最高かな。スコアは出回っていないので、採譜してライブで演奏したことがあります。

指が速く動かない時期の録音ですが、その分フレーズのおもしろさは格別です。曲ごとに攻め方のバリエーションがあり、上に上げたもののほかにも「Like Someone In Love」や「The Surrey With The Fringe On Top」でも個性的なフレーズを連発。バップフレーズだけでない、ゲッツのこれまでのキャリアに裏打ちされたフレーズが多彩。ジャズは年齢がものをいう、ということがよくわかるアルバムです。

 ラスト3曲がマイナー3連発で、この美世界とゲッツの寿命が終わることの悲しさを暗示しているようです。ラスト前の「Hush A Bye」で運命を振り切ろうとして、でもできなかった、というような物語を勝手に感じています。ゲッツは「Hush A Bye」のメロディを完全に変えています。その場のフェイクでなく、まったく新しくしています。アルバム「Soul Eyes」でも原曲とは違うメロディにしていました。

アルバムの最後はバラードの「Soul Eyes」、70年代以降(かな?)のゲッツのバラードの特徴でラストはゲッツがテーマに戻らずピアノソロがリタルダントして終わるんですよね、これも何かを暗示しているみたいですごく寂しくなる。だからこそアルバムの構成としてすごく優れているなあと思います。

ちなみにブックレットの写真に、どうやらリードをばらまいているようなものがある。よくわからないんだけどバンドーレンのようにも見えるんだよね。ゲッツがどんなリードを使用していたか気になるところ。

 

 

People Time

People Time